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圭と陽介の初めての文化祭④
涙を拭い、しばし呆然──
ステージには幕が降り、そこにはもう誰もいないのにまだ歓声があがっていた。
里佳さんが俺の腕を引っ張り、控え室になっている教室に行こうと言ってくれたので俺と純平はついて行った。
でも目の前の光景に呆気にとられる。体育館を出てすぐの教室が控え室になっているらしいのだけど、人の山で近付けそうにない……
皆んなが圭ちゃん達に「良かったよ」「カッコいい」「今度は何処でライブやるのか」など口々に言っていた。
ライブ中も感じていたけど、始めて間もないのに凄い人気。
「こりゃ、暫く近づけないね」
里佳さんが溜め息まじりにそう言った。
着替えを済ませた圭ちゃんが廊下に出てくるや否や、女の子達に囲まれてしまい握手をしたり写真を撮ったり、大変そう……
「はいはいー! 終わりー! いつまでもここにいてもしょうがないから! ほら解散!」
先生らしき人が出てきて人混みに怒鳴り、やっと混雑がなくなった。「後は鍵閉めといてね」と、その先生も帰ってしまい、入れ違いで俺らは教室に入った。
「お疲れ様!」
俺が声をかけると圭ちゃんは「どうだった?」と興奮冷めやまない感じで聞いてくる。勿論凄く良かったんだけど、俺も興奮してしまって「凄え!良かった!」としか言えなかった。もっと色々言いたいことが沢山あったんだけど上手く表現できなくて、やっぱりまた「良かった! カッコ良かった!」と馬鹿みたいに繰り返してしまった。
奥には靖史と見慣れない人……
ベースの透 君を紹介してもらい、俺は自己紹介をした。
「圭はもともとギターめっちゃ上手いからいいんだけどよ、俺ら必死で練習したんだもんな」
靖史がそう言って透君と笑ってる。そんなこと言って、二人だって凄く上手かった。
「いやいや、凄え上手くてびっくりだったよ!」
純平も興奮気味に話している。
最後のあのバラード、靖史の作詞なんだよな。
「……あの最後の曲。靖史、ありがとうな。俺すげえ感動しちゃった」
「ありゃ俺の渾身の一曲だ!」
靖史が照れくさそうに笑った。そんな様子を見ていた里佳さんが俺が涙を流していた事を圭ちゃんに喋ってしまい俺は焦って否定した。
……やめてくれ! 恥ずかしい。
「知ってるよ。俺、ずっと陽介見ながら歌ってたから」
「 ………… 」
恥ずかしくて俯いてしまった俺を圭ちゃんはグッと抱きしめた。
「俺、かっこよかったでしょ?」
「……うん」
状況がわからない透君だけ意味がわからずきょとんとしている。いくら親友だといったって、いきなり抱き合ってちゃ不思議に思うよな……
圭ちゃんは俺とのことを隠すつもりはないのかな? お互いそういうことを話したことはなかったけど、俺よりも圭ちゃんの方が潔いってことはわかってる。だから他人がいる前で俺のことを抱きしめてくれたこと、嬉しかったんだ。
少ししてから状況把握できたのか「そういうことだったのか!」と透君は呟いた。
圭ちゃんが改めて透君と里佳さんに俺のことを紹介してくれた。
「陽介は俺の一番大事な人だからよろしくね」
透君も何の偏見もなく俺を受け入れてくれた。
俺の周りはみんないい奴でよかった──
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