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初めてのクリスマス①
また僕は複雑な気持ちで康介とライブハウスに向かってる。僕の横にいる康介はいつにも増してご機嫌だった。
「ほんと竜は可愛いよな……」
足の先から頭のてっぺんまで康介が僕のことをじろじろと見る。
「………… 」
「そんなムッとした顔してんなよ。よく似合ってるぞ?」
「うるさい」
似合ってるなんて言われても僕はちっとも嬉しくなかった。
本日の僕の服装──
康介から借りたコートの下は、赤くて可愛らしいミニスカートのサンタさん。
そう…… またなんです。 様子のおかしかった周さんが、嘘みたいに元に戻って元気になった。でも安心したのも束の間、昨夜ご機嫌な周さんがわざわざ僕の家にこの衣装を届けに来たんだ。
「明日のライブな、クリスマスの曲もやるし、俺らもみんなクリスマスっぽい衣装を着るから、竜太もこれ着て来てな」
満面の笑みの周さんに渡されたのがこのサンタの衣装だった。本当に周さんてば、こういう衣装はどこで手に入れるんだろう。ちゃんと僕が着られるサイズなのが何とも言えない。そしてまたご丁寧にセミロングの茶髪のウィッグも入っていた。
本当はこういうのは嫌なんだけど、嬉しそうな周さんのあの笑顔を見せられちゃうと断れないし、もっと喜んでもらいたいって思っちゃうんだ。周さんは女の子が良いんじゃなくて、僕が恥ずかしがってこういう格好をしてるのを見るのがいいんだと言っていたけど正直複雑な気分だった。
電車を降り、康介と並んで歩きながらふと思った。
「ねえ、康介はクリスマスのコスプレしないの?」
康介はいつもと同じ格好だった。
「ん? 俺は着ないよ。何も言われてないし」
……なんだよ。どうせならみんなで着れば楽しいのにな。
ライブハウスに着くと、チラホラとクリスマスっぽい格好の人が目についた。
でも…… 僕みたいに全身サンタのコスチュームの人は見当たらない。みんなカチューシャだったり帽子だったり、アクセサリーなどのちょっとしたものを身につけているだけ。
僕だけすごく張り切ってる人みたいで恥ずかしくなってしまった。
康介がドリンクをもらいにカウンターに行く。康介が僕から離れた途端に僕は知らない男の人に声をかけられてしまった。
とても軽そうな二人組。このパターンはナンパだとすぐにわかる。
「ねえ君! すっごい可愛いね! サンタさん似合ってる。今日はどのバンドがお目当てなの?」
強引そうだし話したくなかったから適当にあしらおうと手短に「D-ASCH 」と僕は答えた。僕が答えると二人はパッと笑顔になり、同じD-ASCH のファンなんだよ! と肩を組まれてしまった。
やだ、馴れ馴れしい……
そう思った瞬間、颯爽と現れた周さんに抱き寄せられた。
「……な! うわっ! 周……さんだ! マジか?」
僕の肩を組んできた男は、周さんの姿を見て興奮してる。
「こいつに気安く触んな」
周さんは鋭く睨みながら僕を引き寄せ、頭のてっぺんにキスをした。僕をナンパしてきた二人組は、赤い顔をして周さんをポカンと見つめている。格好いい周さんの登場の仕方に僕までうっとりとしてしまった。
「周さんの女だったんすね。スミマセン!」
二人はそう言って慌てて行ってしまった。解放されてホッとしたけど、でも僕、女の子じゃないんだよな。
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