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初めてのクリスマス⑥
カンカンになって怒っている康介が、やたらと僕の事を「俺のだ!」なんて言うもんだから、須藤さんはすっかり僕と康介がそういう関係だと勘違いしている。
「康介? ちょっと飲み過ぎだよ? ねえ修斗さんはどうしたの?」
須藤さん以上に康介もかなりお酒臭い。酔っ払い、最悪だ……
「修斗さんはな! さっき俺がお仕置きしてきた!」
康介はいつもの調子でフンッと鼻の穴を膨らませて何だか得意げ。
……お仕置きって?
「ほら! 竜、立てない? 俺に掴まって…… 」
康介が僕を気遣い、何やらカッコつけて手を差し伸べてくれたけど、どう見たって足元覚束ないしフラついている。申し訳ないけど康介に掴まるより自分で立ち上がった方が早そうだ。
「ほら! もたもたしない!」
康介は強引に僕の腕を取り、案の定立ち上がる代わりに蹴つまずいて、僕の上に倒れこんできた。
もーー! なんなの? 皆んな酔っ払いすぎだよ!
「あ…… 竜、いい匂い 」
嘘でしょ? やだ! ここにも変な動物が……!
僕の横でポカンとしている須藤さん。僕の上でスンスン匂いを嗅いで満足そうにしている康介。
なんなの? この状況……
どうにもならなくて、半分諦めかけたところに、また頭上から声がした。
「おい! 何やってんだ? 康介お前飲み過ぎだぞ! 須藤もどうした?」
そこにいたのは陽介さんだった。
……やっとまともな人が来た。
「陽介さん、助けて……」
僕が助けを求めると、苦笑いしながら陽介さんは康介の首根っこを捕まえて僕から引き剥がしてくれた。
「ごめんな、康介飲み過ぎだよね…… それより竜太君、周もなんか酔っ払って面倒くさくなってるから行ってやって」
「え? 周さんも酔っ払ってるんですか?」
周さんらしくなくて、驚いて陽介さんに聞いた。
「なんかなぁ、俺は死の淵から復活したんだ! って訳のわからないこと言って豪快に飲んでたぞ? あいつ病気でもしてたんか?」
いや……なんだろう?
「病気なんてしてないと思いますよ?」
まぁ、周さんはここのところ様子がおかしかったけど …… その事かな?
とりあえず、僕は周さんのいる個室へ戻ろうと廊下を歩いた。
「あ……」
トイレから出てきた修斗さんと出くわしてしまった。
……近くで見ても凄く綺麗だ。男の人には到底見えない。ついまじまじと見つめてしまった。でも先程の康介との熱烈なラブシーンが頭に浮かんでしまい顔が熱くなってしまった。
「竜太君、康介見なかった?」
「あ……あ、さっき陽介さんに……」
思わず動揺……
「康介、かなり酔ってたから心配。もう……化粧直しだって面倒くせーんだから…… 」
ぶつぶつと修斗さんが呟いている。
ライブの後だからか、少し衣服も乱れているような……
「修斗さん大丈夫ですか? ……さっき康介がお仕置きがどうこうって言ってましたけど……」
僕が聞くと、カァーっと真っ赤になってしまった修斗さん。
……あれ? 僕、余計なこと言っちゃったかも。
「康介飲み過ぎなんだよ…… あいつ酔っ払って気が強くなってる……」
僕から目を逸らして恥ずかしそうに修斗さんはもじもじと言った。その女装姿で恥じらってる姿が妙に色っぽく見えて目のやり場に困ってしまう。
でも康介があんなに飲んで酔っ払ってるのはさ……
「康介が飲み過ぎてるのって、修斗さんのせいですよ! 康介やきもち妬いてるんです。修斗さん康介のところにいてあげてくださいね。寂しがってるから…… 」
……そうだよ。
やたら僕の事を「俺のだ!」って言ってるけど、それってさ、修斗さんは俺のだ!ってみんなに言いたいけど言えないからなんだよ、きっと。
せっかくのクリスマスなのに…… って言っていた康介を思い出して、僕もちょっとだけ寂しくなってしまった。
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