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初めてのクリスマス 修斗の場合④
康介の部屋──
家に到着するなり二階の康介の部屋に押し込まれ、一人ポツンと待たされている。
「修斗さん、ここで少し待っててくださいね!…… 部屋から出ちゃダメっすよ! 絶対!」
大真面目な顔をして、ドアもしっかり閉めて康介は出て行った。
……なにしてくれるのかな?
サプライズってさ、予めわかっちゃってたら変に期待しちゃうしリアクションに困る。
何? この妙なプレッシャー。
やっぱり俺、知らなかった! びっくり! ありがとう! っていうリアクションをした方がいいんだよな?
てかさ、遅くね? まだかなぁ……
遅いなって思ってからすぐ、部屋のドアがノックされた。やっと来たか、と俺は恐る恐るドアを開けた。
ゆっくり開けた扉の向こうに見えたのは……
「…… は?」
凄い衝撃! 変なトナカイさんが立っていた。
顔だけ出してる全身タイツ系のトナカイコスプレ。なぜか赤いマント付き…… そして赤いマントと同じく真っ赤なリボンを頭に付けた康介が立っていた。
「……康介……君?」
ドアの前で無言仁王立ちな康介トナカイに声をかけると、突然大きな声で「メリークリスマス!!」なんて叫ぶもんだから、びっくりしてひっくり返りそうになった。
凄え…… 全然キュンキュンしないサプライズ。
康介トナカイがおずおずと白い袋からプレゼントを取り出し俺に差し出す。
「なに? 俺にプレゼント?」
そう聞くと、なぜか康介は無言でウンウンと頷いた。
「ありがと! 康介、開けていい?」
プレゼントを開けてみると、センスのいいニットパーカーが入ってた。フード付きのちょっと可愛い感じのやつ…… 早速着てみると、サイズもぴったりだった。
「すげぇピッタリ! いいねこれ、似合ってる? ありがと康介」
康介トナカイはニコニコして俺に抱きついてきた。なんでこいつ、喋んないんだろう…… トナカイに徹してるのかな? ちょっとよくわかんないや。
「あ! そうだ、俺からもプレゼントあるんだけどね、ちょっと大きいからうちにあんだよ。明日も会える?」
俺にギュッと抱きついたまま、康介がこくこくと頷いた。
「………… 」
「あとね、修斗さん……もうひとつプレゼント……」
そう言いながら、上目遣いで俺を見る。
あ、もう喋るんだね? 康介から言葉が発せられてちょっと安心した。
「なに? まだあんの?」
充分もう驚かされたけど? いろんな意味で……
「で、何?」
「……俺」
康介は恥ずかしそうにキュッと目を瞑ってそう言った。
俺? あ…… 頭のリボンはそういう意味か。トナカイ着ぐるみから唯一見えてる康介の顔面が真っ赤になってる。
プレゼントは俺! なんて言うなら、俺みたいに女装サンタとかだろ? なぜに全身トナカイタイツなんだよ。衣装のチョイスもおかしいし、そもそもこういうのは康介らしくない……
「康介? どうしちゃったの? …… らしくないよね。嬉しいけどさ…… 無理してない?」
そう聞くと、頭だけトナカイから出して康介が言った。
「何をあげたら修斗さん喜ぶかなって周さんに相談したんだ。修斗さんの事、一番よく知ってるの周さんだと思ったから……」
「ああ…… そういうことね」
全くこいつは……
「康介、周にからかわれたんだよ。すぐ信じちゃって、康介らしいな」
一瞬キョトンとした康介が「マジか!」と叫ぶ。
「クッソ! 周さんムカつく!」
慌ててトナカイを脱ごうとしてるけど、もぞもぞやってるだけでなかなか上手く脱げなさそうで、見てられなくて手伝ってやった。
康介ってば面白すぎる……
俺は笑いを堪えながら「ありがとな」と言ってギュッと抱きしめた。
「でもわざわざプレゼントしてくれなくたって……康介はもうとっくに俺のもんだろ?」
「うん…… 修斗さんのもんです」
ちなみに俺が康介に用意したプレゼントは、肌触りのいい抱き枕。
康介って寝る時に必ず俺に抱きついて眠ってるから。
一人で寝てるのも見たことあるけど、普通に枕や布団を足で挟んで抱きついてるから、きっとそのスタイルが落ち着くんだろうな。
「俺が一緒じゃない時はこれに抱きついて眠ってね 」
そう言って渡した。もちろん康介は真っ赤な顔をして喜んでくれたけど…… その日の晩は、康介のたっての希望で俺が抱き枕になってあげた。
でも俺もこれが一番落ち着くんだけどね。
─ 初めてのクリスマス 修斗の場合 終わり ─
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