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康介修斗のバレンタイン 7
学校に行くなり、待ち伏せしていた知らない女や隣のクラスの男やらにチョコを渡されそうになる。
「深い意味はないんだけどさ、よかったら貰ってよ」
深い意味がないなら尚更貰う意味ねえじゃん。
「ごめんね、今年は俺……誰からも貰わない事に決めてんだ」
毎回同じセリフでチョコを受け取らず断る。
学校ではこれでいいけど……
今夜のバレンタインライブではそういうわけにはいかないよな。
兄さんがシラけさせんなって言うから、ファンからのは一応受け取らないとマズい。
康介も竜太君と一緒にライブに来るって言ってた。
ほんと嫌だな……
でもバレちゃったんだからしょうがない。
今日は控え室で二人を待たせライブをする。
案の定、終わってから沢山のチョコを貰ってしまった。
康介はここに来た時から既に元気がないように見えるし、こんなの見たらますます酷くなるんじゃないかな。
せっかく学校では何も受け取らなかったのに、俺の誠意が伝わらねえじゃん。
そう思って、俺はこんなのいらないんだよアピールの如く、貰ったプレゼントを康介に押し付けた。
「修斗さんがもらったんでしょ? 何で俺がこんなの貰わないといけないんすか! やめて! 突っ込まないで! やだってば!」
「これいらないから康介にあげるって! ね? 重たいしバッグに入れといて」
いつもはこういう強引な事でも言う事聞いてくれるのに、今回はムキになって康介は拒んできた。
何なんだよ。
「修斗さん! 康介のバッグ、入りきらないですよ! 自分で持ってって下さい! そんなに押し込んじゃ康介の荷物も潰れちゃう!」
少しテンパってたせいか、夢中で康介のバッグに突っ込んでいたら竜太君に止められた。
言われてハッとした。
康介の事だ……
きっと俺にチョコを用意してたはず。
あぁ……ごめんな。
俺、そんな事も気付かずにぐいぐいバッグに突っ込んじまった。
涙目の康介に平謝りして、俺は自分の荷物をまとめた。
みんなでライブハウスを出て、今日は打ち上げは無しで解散。
「康介? ……ごめんね。機嫌なおして…」
道路に出てからもずっと康介、ムスッとしてて目も合わせてくれない。
俺、康介傷付けないように気をつけてたはずなのにな。
「ごめんね……一緒にご飯食べに行こうよ。てか、今夜は康介と一緒にいたいんだ。だめかな?」
俺は康介の服の裾を掴んで引っ張る。
康介ってば、怒ってるのか俺を無視してズンズン歩いて行こうとするんだもん。
「ねぇ……康介ってば。行かないでよ。俺と一緒にいてよ……」
なんか悲しくなってしまった。
俺だって康介にチョコ、用意してるのにさ。
康介とのバレンタイン、楽しみにしてたのに。
「なんだよ……康介のバカちん」
そう呟いたらやっと振り返って俺の顔を見てくれた。
「バカちんって何すか。もう、そんなに可愛く 一緒にいてよ……なんて言われたら抱きしめたくなるじゃん」
「もう抱きしめてんじゃん。康介のバカちん…… 」
やっと康介が笑ってくれた。
よかった。
ホッとしたら泣けてきた。
俺、康介好きになって泣き虫になったな……
「修斗さん、ごめんなさい。俺、酷いヤキモチ妬きなんです。俺が悪いの。だから泣かないで、ごめんね。ご飯どこ行きます? それとも、何か買って……ホテルでも行きますか?」
俺を抱きしめたまま、康介が恥ずかしそうにそう言ったから、俺は黙って頷いた。
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