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修斗の誕生日 6
イライラしながら俺は康介の指定したコーヒーショップへと向かっている。
でもこうやって怒ってイライラしてたって、どうせ康介と会ったら嬉しくてこんな気持ち吹っ飛んじまうんだろうな……なんて思った。
だってさ、ずっとご無沙汰だったんだよ?
早く康介と二人で過ごしたい。
康介に触れたい……触れてほしい。
もう俺の誕生日なんて、どうでもいいや。
そう思ったら自然と歩く足が速くなった。
赤信号で立ち止まりふと前方を見てみると、なぜか既に私服に着替えた康介の姿がそこにあった。
……康介。
あれ、俺が好きな服だ。
珍しく髪の毛までいい感じにセットしてるし。
……カッコいいな。
俺と目が合った康介が笑顔で俺に手を振った。
やっぱり……怒ってたはずなのに、康介の姿を見たらどうでもよくなってくる。俺も康介に手を振ろうとしたその瞬間、誰かに後ろから腕を掴まれ引っ張られた。
「あっ?」
なんだ? って思う間もなく後ろから羽交い締めにされ、目隠しをされてしまった。
一人じゃない……二人?
体が浮く感じがして、両膝を持たれてる事に気がつく。
多分二人がかりで俺はあっという間に持ち上げられ、すぐに放り出された。柔らかな場所に投げ落とされ、エンジン音が聞こえたので車に乗せられたんだとわかる。
「よっしゃ! 行くぞー!」
誰かが叫び、そして車が動き出した。
なんだこいつら!
俺は目隠しされて見えなかったけど、手足を拘束されたわけじゃなかったから、とりあえず声のする方へと拳を突き出した。
「うぁっ! 痛ぇ!」
うまい具合に俺の拳が命中したのもつかの間、両腕を捕まえられてしまう。
「待てって……! 暴れんなよ修斗! ……っきしょぅ、痛えな。クリーンヒットだよ全く」
押さえ込まれ、それでも暴れて抵抗していたら目隠しを外された。
聞き覚えのあるその声の方を見ると、たまにクラブとかで一緒になる遊び友達が俺の事を見ている……
「???」
俺が理解できないでいると、そいつらは楽しそうにこう叫んだ。
「サプラーイズ! イェーーぃ! ハッピーバースデー修斗!」
「………… 」
ハッピーバースデーだ? は? サプライズ?
混乱する頭ですぐにこの状況を理解した俺は一気に力が抜けて呆れてしまった。
「はぁ? 何やってんの? ふざけんなよ! 俺、今日のパーティは断ったよな? 今日はダメだって言ったよな? 」
こいつらバカだ……
「そうだよ。聞いてたけどさ、修斗来ないと盛り上がんねぇじゃん。だから連れてっちゃおう! って事で満場一致! 」
付き合ってらんねぇ……
「本当バカだな! あんな事して、知らない奴が見たらそのまんま誘拐じゃん! 今頃通報されてんじゃねえの? お前ら逮捕だな 」
「マジかよ? やべぇー! 俺ら捕まるのかな?」
わちゃわちゃとバカみたいな事を言ってるこいつらなんかどうでもいい。
目の前で一部始終見ていたんだ。
康介、絶対心配してる……
「なぁ、アレ見てみ! なんで車道ど真ん中走ってんのあいつ。後ろ見てみ〜、危ねえなぁ…… あのチャリ轢かれんぞ!」
信号待ちで止まってる所に、運転していた奴がミラーを見ながら驚きの声を上げた。
振り返るとかなり後方だけど自転車の男が普通に車道のど真ん中を全速力でこちらに向かって走ってきていた。
信号が青に変わり、車は発進する。
「……康介? ばか! 危ねえって……おい! 早く降ろせ! てめえ降ろせよ! 早くっ! 死にてえのか? 早く止めろ! 降ろせ! ぶっ殺すぞ!」
後ろから運転手の後頭部をガンガン殴りつける俺を仲間が必死に抑える。
「わかった! わかったって! 殴るな! 今降ろすから!」
大慌てで路肩につけて停車した車から、転げ落ちるように俺は降りた。
「悪いな、また今度遊ぼうな」
一応そう声をかけ、康介がいる後ろへ走った。
俺が車から降りたのに気が付いたのか、康介も歩道の方へ戻ってくれてひと安心……
それでも全速力でこちらに向かって走ってきて、俺の目の前まで来ると自転車から飛び降りゼーゼー言いながら抱きしめてくれた。
……人が見てる。
「……っハァ……しゅ……とさん……っ、怪我は……ハァ……ハァァ…ない?……ハァ……っ! ゲホッ! ゲホッ…… ハァ…… 」
汗だくになった康介は、息切れが酷くて上手く喋れず咳き込んでしまう。
「大丈夫だから、俺は大丈夫! 落ち着けって……息整えて……」
立ってられなくなって地べたに座りこんでゼーゼー言ってる康介の背中を優しく摩る。
俺の腕をギュッと掴んでいる康介の手は震えていた。
「よかった………ハァ……ハァ、よかった………修斗さん……ハァ…俺……俺……ハァ」
「ごめんな。心配したよな?……俺の友達が悪ふざけしたんだ。ビックリしたよな……大丈夫だから」
しゃがみこんでる康介の背中を摩りながら、俺は優しく抱きしめた。
「康介……大丈夫?……落ち着いた?」
無言でコクコクと頷き、肩で息をしながらやっと顔を上げた康介。
真っ赤な顔で汗だく……
目には涙が溜まってる。
でも俺と目が合うと、いつもの笑顔で声をあげて笑ってくれた。
「もう、サプライズにもほどがありますって! 俺、寿命縮まりましたよ……でも、本当の誘拐とかじゃなくてよかった……本当よかった……アハハ……ハ… 」
笑いながら、やっぱり康介は泣いてしまった。
康介が落ち着くまで、俺らは二人歩道の端で座っていた。
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