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修斗の誕生日 7
「……本当に大丈夫ですか? 修斗さん、本当にさっきの友達? 」
息が落ち着いてきた康介は、俺の腕を掴んだままで心配そうに聞いてくる。
「大丈夫だって。誕生日パーティー断ってたんだけどさ、盛り上がらねえからって強引に連れてこうとしたんだよ。バカなんだよな。俺もビックリだよ」
「誕生日……もしかして他にもう約束しちゃってますか?」
しょんぼりした顔でそんな事を言う康介。
康介がいるのに、他に約束なんかするわけないだろ。
「なんで? 俺の誕生日当日だよ? 康介以外の奴と過ごすわけねえじゃん」
俺の言葉に、へへっ……と嬉しそうに康介が笑う。
心配かけちゃってゴメンな。
あんなに必死になって追いかけてくれてありがとう。
「ところでさ、なんで康介今日はチャリなの? しかも着替えてるし……」
不思議に思って聞いてみると、康介はちょっと得意げな顔をして話し出した。
「修斗さん、前に竜と周さんが自転車二人乗りしてんの見て羨ましがってたじゃん? だから今日は修斗さんを後ろに乗せてデートしようと思ったんです」
ドヤ顔で康介が俺を見る。
マジか……
そんな些細なこと、ちゃんと覚えててくれたんだ。
なんか嬉しいし照れ臭い。
「これから修斗さんち行って、着替えてから出かけますよ。夕飯だって予約してあるし……それに朝までずっと一緒です。今日は帰さないから」
最後は小さな声で囁くように言った。
「うん……ありがと」
二人で立ち上がり、そこに転がしたままになってる自転車を拾いに行く。
が……康介の様子がどうにもおかしい。
「……修斗さん。やばいダメだ……俺、膝が笑っちゃって……どうしよう、ガクガクする…… 」
その場でまたへたり込んでしまう康介。
そんな情けない姿に思わず吹き出し、俺が代わりに自転車を拾ってやった。
「しょうがねぇな、康介後ろに乗って。俺が運転してやるから」
そう言って康介を後ろに乗せた。
走り出すと後ろでぶーぶー文句を言ってる。
「本当は俺が修斗さんを乗せてあげるんだったのに!……こう腰にギュッと捕まってもらってさ……喜んでもらおうと思ってたのに… 」
「………… 」
その気持ちだけで十分嬉しい。
俺の背中に頭をゴンゴンぶつけて文句を言ってる康介に「また次の機会にな」と話す。
「でもさ、車道にまで出て猛スピードで追いかけてくれたじゃん? 警察には電話しなかったの? あれ普通に見たら誘拐じゃね? そう思わなかった?」
「そうだよ! 修斗さん、攫われた! って焦りましたよ! でも警察の事は頭に浮かばなかった……そっか、警察に連絡すればよかったんだ……」
康介らしいな。
そう思いながらも、まぁ結果犯人は友達だったわけだし、警察に連絡いってなくてよかったよな……って思った。
「一生懸命追いかけてくれてありがとな」
やっと康介と二人で過ごせる。
自然と俺は笑顔になった。
家に帰って私服に着替える。
康介はさっきの爆走で汗だくだからシャワーを浴びさせた。康介は遠慮して、シャワーなんかいいってうるさかったけど、どうせ誰もいねえし汗臭いのは嫌だと言ったら、渋々風呂場へ向かってくれた。
汗びっしょりのこの服……どうするかな。
この服、前に俺が褒めたやつだ。
康介に似合ってて、お洒落で好きだって言ったら、俺と会う時こればっかり着てんの……
可愛いよな。
しばらくして、康介がシャワーから出てきた。とりあえず俺のTシャツを着てるけど……
「康介のこれ、汗びっしょりだからさ、俺の服着てよ。好きなの選んで」
「着られないでしょ? 修斗さんの方が背高いけど細いじゃん…… 」
クローゼットの前でどうしようかと固まってる康介の後ろから俺は抱きつく。
「……修斗さん?」
「康介……俺んちの匂いする」
「そりゃそうでしょ、ボディソープ借りたもん……」
「なんかいいな。康介……好きだよ」
途端に康介の耳が真っ赤になる。
わかりやすいのが可愛いと思う。後ろからその真っ赤になった耳を甘噛みしながら「康介……キスしてよ」と強請ってみた。
「な! ダメだって……! 修斗さん煽らないで。ダメです……止まらなくなっちゃうから……やめて」
俺の腕から逃れようとした康介を俺は強引に抱き寄せてキスをする。
「……どうせまだ足ガクガクしてんだろ? キスから先はまた後でね」
悔しそうな顔をする康介にそう言って笑いかけ、俺が康介の服をチョイスしてやり、やっとデートに出かける事にした。
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