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修斗の誕生日 9
目的のレストランに到着する──
「……このお店?」
入口で修斗さんが立ち止まって何故か怪訝そうにそう聞いた。
この店、雑誌で見ていいなぁって思ってたんだけど、竜も行ったことがあるって教えてもらって即決で予約したんだ。
大人っぽいお洒落なイタリアン。
ちゃんと個室もあるし、予約時にちゃんとケーキも頼んだ。
今度は完璧! 俺がエスコートするんだ。そう思って予約したんだけど……
「もしかして修斗さんはこの店来たことあります?」
「……いや、食べに……は来た事ないかな?」
ん…?
何かひっかかる言い方をする修斗さんに不思議に思いながらも、俺は意気揚々と店内に入り店員に予約の旨を伝えた。
「すげ……なんか雰囲気いいですね。あれ? どうかしました? 修斗さん」
店内に入ってからなんだかキョロキョロと落ち着かない。一番奥の個室に通されてからもソワソワした様子にやっぱり違和感を覚える。
「あ、いや……実はさ」
何かを言いたげなそのタイミングで案内とはまた別の店員が部屋に入ってきた。
「いらっしゃいませ、鷲尾様……って、修斗君じゃん! えー?」
いきなりその店員は修斗さんのところへと近づき、馴れ馴れしく腕に触れる。
なにこのムカつくイケメン……
「……やっぱりいたか」
溜息を吐きながら修斗さんが呟いた。
「なに? そんな嫌そうな顔! 今日の誕生日は大切な人と過ごすからって、俺断られたんじゃなかったっけ? なんでいるの? 」
そいつがチラッと俺の事を見る。
「………… 」
ちょっと感じ悪い。ただでさえムカつくのに、なんでこいつ修斗さんに触ってんだよ。
「……だから! こいつが俺の大切な人なの! 大切な人と過ごす誕生日を邪魔しないでくれる?」
あ……
修斗さん、恥ずかしそうだけどはっきりそう言ってくれてめちゃくちゃ嬉しい。
「なにそれ……おまえコッチの人間だったの? なら俺と付き合えたじゃんか」
「………… 」
この人明らかに俺の事、睨んでますけど……
てかいい加減にしてほしい。
「あの……お友達か何か知りませんけど、仕事してくれます? 俺たち客ですし、今日はこの人の誕生日祝いなんです。予約した時ちゃんと言った筈ですが……」
いつまでも修斗さんの腕を掴んでるこいつがムカついてきたから、そう言って追い払ってやった。
店員は慌てて出て行き、修斗さんは嬉しそうに俺の顔を見る。
「康介かっこいいー!」
「ちょっと修斗さん……なんなんですか? 今の人」
カッコいいとか言われたって誤魔化されないからな。
「え? 友達だよ。ともだち」
でもどう見たって向こうは修斗さんの事狙ってる雰囲気じゃん。
「遊び友達だけど、あいつゲイだからね。俺のこと恋愛対象として見てたのかもしれねぇな……」
「いや、明らかに見てたでしょ! もぅ! 大丈夫ですか?」
なんか心配だな、この人。
そんな俺の心配をよそに、ふふっと笑う修斗さん。
「俺、男の康介が好きだけど、男なら誰でもいいってわけじゃねえよ? 康介だから好きなんだ。康介じゃなきゃ嫌だよ……そんな事もわかんねぇの?」
「………わかるけど。強引な人もいるから俺、心配なんです。それに俺……あんな風にカッコよくないし」
人気者でモテモテの修斗さん。
それに比べて俺なんて……
いつか飽きられてしまうかもって、心配でしょうがないんだ。
そんな話をしている間に料理が運ばれてくる。
「また! 康介変な事考えてるでしょ? 顔変だよ。俺にとっては康介が一番カッコいいんだから、そんな顔すんなよな」
調子のいい事言ってる。
でも……
「修斗さん、顔……赤い」
「当たり前だろ! 俺、康介のためにさっきからすげぇ恥ずかしい事言ってるんだぞ!……いい加減わかれよ」
口を尖らせて照れた顔をしてる修斗さん。
「すみません……俺も大好きです」
ちょっとだけ邪魔者が入ったけど、美味しく料理を頂いたし、最後に運ばれてきたケーキも花火が付いてる派手な演出。
修斗さんも凄く喜んでくれた。
この笑顔のために頑張ったもんな俺。
今日までの頑張りが報われた気がしてこの上なく嬉しかった。
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