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高坂と志音 小旅行③
結局一人で教室でパンを食べ、放課後も保健室へ寄る事もせずに下校した。
校門のところに真雪 さんの迎えの車。
真雪さんはモデル事務所の社長で、血は繋がってないけど俺の母親でもある。
「お待たせしました。ありがとう、真雪さん」
俺は後部座席に乗り込むと、車は真っ直ぐ仕事の現場へと向かった。
「ごめんね、時間ないから制服脱いでそこにある服に着替えておいて」
運転しながら真雪さんが言うから、俺は軽く返事をして着替えを始める。
「どうしたの? 元気ないじゃないの」
「………… 」
「疲れちゃった? ……現場ではそんな顔するんじゃないわよ。今日はこの撮影一本で終わりだから。終わったらすぐマンションまで送ってあげるからね。頑張んなさい」
真雪さんにピシャリと言われ、慌てて気持ちを入れ替える。
「すみません……気をつける」
スタジオでの撮影を終えて、先程言った通り真雪さんはそのままマンションまで送ってくれた。
「今週末はお休みにしてあるからゆっくりしなさいね。 おやすみ」
機嫌のよさそうな真雪さんにそう言われ、俺は「お疲れ様でした」と頭を下げマンションへ入った。
土日の連休……
先生と会えるかな?
丸々二日も続けて休みをもらうのも久しぶりだった。
エレベーターを降り、ゴソゴソとバッグの中のキーを探す。
まだそんなに遅くないし、これから悠さんの店にでも行こうかな?
もしかしたら先生もいるかもしれないし。
そんな事を考えながら玄関のドアを開けると、誰もいないはずの部屋に明かりがついて足元には見慣れた靴が一足……
先生だ!
俺は慌てて靴を脱ぎ、リビングへ急いだ。
「……陸也さん! 来てくれてたの?」
キッチンで何かを作っている先生の所へ駆け寄ると、嬉しくて後ろから抱きついてしまった。
「志音、お疲れ様」
先生は振り向きもせず、鍋をかき回しながら小さく呟く。
「………… 」
俺は先生の背中に抱きついたままで「ごめんね」と謝った。
「今日は……ごめんね。俺、言い過ぎた」
素直になるタイミング。すぐに機嫌損ねて我儘言って困らせてしまってる自覚はある。でもちゃんと自分が悪いとわかっているから、酷いことを言って傷つけてしまっているのもわかるから……先生は俺に謝るタイミングをちゃんとくれるから、またこうやって俺は許しを請うんだ。
「俺……陸也さんのこと好き。自惚れててくれていいから……自惚れんな、なんて嘘だからね」
あの時の先生の寂しそうな顔が頭から離れない。
「最近あんまり会えてなかったから……寂しくって……ははっ……恥ずかしいな俺。陸也さん? ねぇなんか言ってよ」
「……俺は自惚れてていいのか?」
振り返らずに先生が呟く。
……やっぱり気にしてるんだ。
「ごめん! 本当にごめんね。いいよ、俺 陸也さんだけだもん! 俺こそ嫌いにならないで……ガキ臭い事ばっか言っちゃうけど、陸也さんの事大好きだから」
「俺はさ、怖いんだよ。志音に愛想尽かされるのがさ。あの時保健室から出ていった志音の後ろ姿見て頭真っ白になった。自惚れんなって言われて……あぁ、俺嫌われたんだって、力抜けたよ。でもよかった」
振り返った先生の顔は笑ってる。
……よかった。
「陸也さん、昼休み俺の事探してくれたんだろ? 嬉しかった。嬉しくて保健室へ戻ったんだけどさ、他の生徒が屯してたから俺、教室戻ったんだ。それでそのまま仕事だったから会いに行けなかった。教室まで来てくれてありがとう」
やっと顔を見せてくれた先生の頬に手を添えると、その手を先生がそっと握ってくれた。
「志音……キスして」
ジッと見つめられ、少し照れながら俺は軽く唇を重ねた。
チュッと小さくリップ音を立て唇を離すと、今度は先生の方から唇を重ねてくる。
ゆるりと舌が俺の上唇をなぞり、優しく啄む。
しばらくの間、二人の気持ちを確かめ合うようにキスを続けた。
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