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高坂と志音 小旅行⑤
まただ──
進級してからというもの、志音が保健室に来る頻度がグンとあがった。
下手したら、朝登校してそのままここに来て殆どを保健室で過ごしたりしている。
他愛ないお喋りをしたり、ベッドに潜り込み休んだり……
誰もいないとわかるとスキンシップをとろうと俺にちょっかいを出してくる始末。
別に嫌じゃないんだ。
俺の事が好きだというのが伝わってくるし嬉しい。でもここは学校だし、友達付き合いだって勉強以上に大切な事。
それなのに、ここ最近の志音は俺に対しての執着が酷すぎるように感じる。
モデルの仕事が忙しいわけじゃないけど、たまたま俺との都合と合わなくてしばらく会えずにいるのもこうなっている原因のひとつだと思う。
心が寂しがってる……
口には出さないけど、構って欲しい、寂しいってヒシヒシと伝わってくるし俺だってそれは応えてやりたい。
でもここは学校なんだよ。
そこはちゃんと区別しないといけないんだ。
他の生徒もいつも志音が保健室でサボッてることを噂し始めてる。
人気モデルだからって何?
調子に乗りすぎ、いつもあいつベッドで寝てね? 邪魔なんだけど──
言われてる本人は、そんな陰口直接言われたって屁とも思わない。勝手に言ってろ……のスタンスときたもんだから、どんどん孤立していくのは目に見えていた。
あまりに目に余るから今日こそは……と思い志音に言うと、案の定鬱陶しいと言わんばかりに不機嫌になってしまった。
そうだよな。
でもこのままじゃ志音のためにならないと思い話し続けると「自惚れるな」と捨て台詞を吐き、保健室から出て行ってしまった。
ショックだった。
売り言葉に買い言葉なのはわかってる。
……でももし違ったら?
まるで保護者のように接してしまったから、愛想尽かされたのだとしたら?
まさかここまでショックを受けるとは思わなかった。自分の打たれ弱さにびっくりする。
頭が真っ白になってしまい、俺はみっともなく志音の教室まで探しに行ってしまった。でもこんな場所で志音と会えたところでなんて声をかけたらいいのかもわからないし、何より目立ちすぎる……
俺は少し冷静になれるよう、また保健室に戻った。
その後は志音と会う事が出来なかったけど、タイミングよく嬉しい知らせが入った。
数日前に真雪さんにお願いしていた事。
志音に二日間だけでもいい、続けて休みを与えることはできないか? 志音と近場でいいから旅行がしたいから……と言ってお願いをしていたんだ。
「今度の土日、スケジュール都合ついたから。 志音最近元気ないからたっぷりリフレッシュさせてあげてね」
真雪さんもわかってたんだろう。なんでも察してくれてありがたかった。
俺はそのまま志音のマンションへ向かった。
志音は喜んでくれるだろうか。
今日も仕事が入ってると言っていたから、きっとまだ帰ってない。
志音の好きなビーフシチューを作って待とう。
帰ってきたら、煩く言ってしまってごめんってちゃんと謝ろう。
料理を始めてしばらくすると、玄関の開く音が聞こえた。「お帰り」と言ってもよかったんだけど、なんとなく志音の顔が見られず声を出せなかった。でもすぐに志音が俺のところに来てくれて、後ろから抱きついてきた。
「今日は……ごめんね。俺、言い過ぎた」
耳元で俺に謝る志音。
「俺……陸也さんのこと好き。自惚れててくれていいから……自惚れんな、なんて嘘だからね」
……よかった。志音はちゃんと俺の事好きでいてくれてる。
「最近あんまり会えてなかったから……寂しくって……ははっ……恥ずかしいな俺。陸也さん? ねぇなんか言ってよ」
「……俺は自惚れてていいのか?」
もう一度、確認……
「ごめん! 本当にごめんね。いいよ、俺 陸也さんだけだもん! 俺こそ嫌いにならないで……ガキ臭い事ばっか言っちゃうけど、陸也さんの事大好きだから」
「俺はさ、怖いんだよ。志音に愛想尽かされるのがさ。あの時保健室から出ていった志音の後ろ姿見て頭真っ白になった。自惚れんなって言われて……あぁ、俺嫌われたんだって、力抜けたよ。でもよかった」
俺はホッとしてやっと振り返り志音の顔を見た。
そこには俺と同じように不安そうな顔をして俺のことを見ている志音がいる。俺と目が合うと、愛おしそうににっこりと微笑んでくれた。
好きで好きで堪らない。こんな些細な事でも不安になる。こんな感情、初めてで戸惑うほど……
「志音……キスして」
そう言うと、少し照れながら志音は軽く唇を重ねてくれた。
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