64 / 210
高坂と志音 小旅行⑧
賑やかな街並みを眺めながら、あっという間に宿泊する予定のホテルに到着する。
先生はフロントで何やら話し込んでいるから、俺はラウンジでのんびり待った。
まだ早い時間なのか、ロビーには誰もいない。
少しするとにこにこ顔の先生が戻ってきた。
「お待たせ。行くぞ」
俺の手をとり奥へと歩いていく先生。後ろからホテルの人もついてくる。
「どこに行くの?」
客室に案内される風でもなく、俺は訳がわからなかった。
「凄いな……こんなに色々あると思わなかった。志音はどれが似合うかな」
奥の部屋に通され、目に飛び込んできたのは様々な浴衣。
「え? これって?」
「前もって連絡しておけばレンタルで浴衣着せてくれるんだよ。二人で浴衣着て七夕祭り見に行こうぜ」
先生はそう言いながら、沢山ある浴衣を物色している。
「俺、浴衣なんて着たことない」
女物の浴衣と比べるとそんなに種類は豊富ではないけど、それでも迷ってしまうほど揃っている。
「お二人様とも背が高くていらっしゃるから……こちらなんかはいかがでしょう」
ホテルの人がいくつか見繕って広げて見せてくれる。
「スタイルもそうですけど、お顔立ちもはっきりしてらっしゃるし……とてもよくお似合いになると思いますよ」
……確かに。
先生がこんなの着たらきっとカッコよすぎて、俺恥ずかしくなっちゃうかも。
「志音? どうした? ……俺が選んでやろっか?」
浴衣の前で固まってる俺を見て先生が心配そうな顔で聞いてくる。
「うん……俺、わかんないから陸也さんが選んで」
先生が俺に似合うと言って決めてくれたのは、紺色で縞の柄が入った浴衣。先生のは生成り地に絣の格子柄。今風の派手なものもあったけど、敢えて昔からの古典柄の方が大人っぽくていいからと言って選んでくれた。それぞれ合った帯も選んでくれて、着崩れしにくいようにしっかりと着付けてもらった。
先生は着慣れてるのか、自分でさっと浴衣を着る。
下駄と草履、雪駄と三種類から履物も選べる。
俺が下駄にしようか迷っていると、歩くから楽なのにしろと言われ雪駄を選んだ。
先に支度を済ませていた先生が俺の姿を見て溜息を吐く。
「なに? 似合わない?」
俺が先生を軽く睨むと笑いながら首を振った。
「そんなわけないじゃん。似合いすぎてびっくりしたよ。お前やっぱりかっこいいなぁ!」
顔を赤くした先生に褒められた。
「本当に、まるでモデルさんみたいで…… 」
着付けをしてくれた従業員がそこまで言いかけ、俺の顔を見てハッとした顔で口元をおさえる。
それを見た先生は「本物のモデルさんだからな 」と嬉しそうに言ってゲラゲラと笑った。
でもさ……
先生の方が凄くカッコよくて、浴衣姿なんて見慣れてないから、俺なんか照れ臭くてダメかもしれない。
「ほら、行くぞ。ん? 大丈夫か? なんか顔赤いけど…… 」
「大丈夫。何でもない」
こうして先生と二人で浴衣を着て七夕祭りへと向かった。
商店街には模擬店が並び、あちらこちらに色とりどりの竹飾りも並んでいる。
凄い賑やかで、とっても綺麗……自然と気持ちも浮かれてくる。
色んな店を覗きながら、スタスタと歩いていると先生が不思議そうに声をかけてきた。
「志音、浴衣初めての割にカッコよく歩くな」
浴衣は着たことないけど、敦から教えてもらってたから。
「うん、和装の機会もあるかもしれないからって、敦からちょっと教えてもらったことあったから。足をね、外側へ蹴りだすように……そう、腰から歩くようにするとカッコよく歩けるんだよね」
まあ、先生は教えなくっても背筋がしゃんとして所作もカッコいい。
惚れ惚れする……
人混みの中、先生は飛び抜けてカッコよかった。
「兄ちゃんたちカッコいいねぇ! どうよ、買ってかない? 寄ってってよ 」
さっきからあちこちの模擬店から声をかけられていて、ちょっとうんざりしてきたところで、俺たちは可愛らしく着飾った浴衣の女の子二人組に声をかけられた。
ともだちにシェアしよう!