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高坂と志音 小旅行⑨
「あのぉ、私たちも二人なんでよかったら一緒に回りませんかぁ?」
鼻にかかった甘ったるい声で話しかけられ、イライラがピークにきてしまった。そんな俺にお構いなく、女の子たちはジロジロと俺の顔を見ている。
……なんなの?
「やっぱり! 志音君だ! マジ? 超ラッキーなんだけど〜!」
「………… 」
俺がムッとして黙っていると、すかさず先生が俺の前に立ち彼女達に話しかけた。
「ごめんね。あんまり騒がないでくれるかな? プライベートで来てるから…… 一緒には回れないよ」
凄いスマイルで柔らかく対応してくれてる先生を、彼女達はうっとりと見ている。
は? そんな目で見てんなよ! なにこの女。
「あの……握手してもらえますか?」
一人が先生に手を差し出すと「喜んで」と言って先生が握手をする。もう一人も俺を見てにこにこと手を差し出してきた。
「志音……笑顔 」
先生にそっと耳打ちされ、慌てて営業スマイルを浮かべて握手をした。てか俺はともかくなんで先生まで握手求められてんの? タレントか何かと勘違いされてんじゃね? ちょっと可笑しい。
その後写真を撮らせてと迫る彼女らに、先生は少し慌てて前にでる。
「写真はごめんな。ハグしてあげるからそれで許してね」
笑いながら二人に軽くハグを始め、楽しそうに笑顔で手を振り立ち去っていくのを眺めながら、俺は先生の腕を抓った。
「なに? 今の! 陸也さん芸能人でもないのに……ハグなんてする必要なかったじゃん」
焼きもち丸出しな俺を見て先生は笑う。
「だって早くどっかに行ってほしかったんだもん。ああいうの邪魔だろ? せっかく志音と二人で楽しんでんのに」
でも「ごめんな」って謝りながら俺の頭をぽんぽん撫でた。
「あとさ、志音は一応有名人なんだからもう少し愛想よくしないとダメだぞ」
「……俺が愛想よくしたらモテモテになっちゃうけど、いいの?」
俺を見て眉毛を上げた先生は「それはダメだな!」と言ってゲラゲラと笑った。
一頻り祭りを楽しみ、昔懐かしい感じの瓶のラムネを飲みながら並んで歩く。一際目立つ人集りを見つけると、先生は俺の手を掴み「行ってみよう」と足を早めた。
……自然に手を繋いでるし。
ちょっと照れくささもあったけど、周りはみんなお祭りに夢中だから気にならなかった。
「うわぁ……すごいね! これみんな短冊?」
先生に引っ張られ来た先には、ズラッと並ぶ笹に沢山の短冊。
ここがお祭りのメイン会場らしく、多くの人達が思い思いに願い事を書き込み、笹に飾っていた。
「もちろん書くよね?」
相変わらず手を繋いだままの先生が俺の顔を見て微笑む。
俺も頷き、二人で短冊に願い事を書き込んだ。
「………… 」
「………… 」
俺は何を書こうかしばらく悩んだんだけど、横にいる先生はペンを取るなりささっと書いて近くの笹にぶら下げに行く。
「早いね。何をお願いしたの?」
「……内緒 」
だろうね。
俺に見られないようにさっさと飾りに行っちゃうんだもん。でも俺は先生の隣に飾るつもりだから、見ちゃうもんね。
俺は短冊に願い事を書いて、ベンチで休んでる先生をチラッと見てから笹に短冊を飾りに行った。
……確かこの辺。
先生は白い短冊に書いてたような……
あ! あった。
こっそりその裏返っている短冊を捲り、なにが書いてあるのか確認をした。
「これって……」
俺は自分の短冊を先生の短冊の隣にぶら下げて、急いでベンチへ戻った。
「志音遅いぞ……あ! 俺の短冊見ただろ〜」
「……見てない」
先生に手招きされ、隣に座る。
「嘘、見たでしょ?」
「………… 」
先生の手が俺の頬に触れる。
「……見たでしょ?……泣いてるよ?」
頬に添えた手が、溢れた涙を拭ってくれた。
「……なにあれ」
ふふっと笑って先生が答える。
「願い事っていうより、俺の決意だな」
俺は何て言ったらいいのかわからず、俯いて溢れ落ちる涙を誤魔化すしかなかった。
「ま、そういう事だ」
先生は満足気に俺の肩を抱き、そろそろホテルに戻るぞ……と言って立ち上がる。俺も涙を拭って、先を歩く先生の後をついて行った。
色とりどりの短冊が風に揺れ、サラサラと小さく涼し気な音色を奏でている。
白い短冊に寄り添うように黄色い短冊が揺れている。
白い短冊の意味する徳「義」は、自分で決めた事を守り通すのに向いている色だと言われている。
そこには綺麗な整った字で、
『人生の最期を迎えるまで、愛する人に寄り添い、俺はずっとそばにいる』
そう決意が書かれていた。
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