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志音のValentine's Day②

ちょうどスーパーは夕方の割引タイムだった。 俺はガトーショコラの材料と、日常で使うちょっとした食材をカートに詰め込む。ひと通り店内を周り、とりあえず今日はこんなところかとレジに向かった。 「ねえちょっと……」 声をかけられ振り返ると、そこには悠さんが立っていた。 「志音の買い物姿、いいもん見た。スーパーのカートでさえサマになるね。流石モデル」 「どうしたの? 悠さんこんな時間に珍しいね。これからお店?」 もうとっくに店もオープンしている時間帯だ。それに悠さんだって人の事言えない。悠さんもスーパーのカゴがサマになってるよ、と言って俺も笑った。 「いや、レモン足んないって頼まれたんだよ……俺オーナーなのにな、バイト君にこき使われてるの」 そう言ってはにかむ悠さんが可愛いかった。 「ん? んん? 甘い甘いこのチョコレートは一体何に使うのかなぁ?」 ワザとらしく言いながらニヤニヤしてカートの中身を覗き込んでくる。悠さんなら聞かなくたってわかるだろうに、冷やかされてるってわかってるのに恥ずかしくって本当のことが言えなかった。 「見んなよ! なんでもいいでしょ。俺が食べるの。チョコ好きなの!」 多分バレバレ……顔が火照る。 「そっか」と言い、悠さんは俺に手を振りスーパーを出て行った。 ……余計な事、先生に言わなきゃいいけど。大丈夫だよね? 買い物を済ませ、早速部屋に戻った俺はエプロンを着け準備を始める。 材料を並べ、必要な道具も全て出しておく。レシピ本をじっくりと読み、作業の流れを頭に入れる……一通りイメージが頭に浮かんだら、作業開始だ。 買ってきたチョコを取り出し、せっせと刻む。 バターと一緒に湯煎して溶かす。そうだ、粉類もふるうんだよな。あ、ココアもかな? 型の準備をして……卵……砂糖、とレシピ本を見ながら順序良く作業を進める。大丈夫。ちゃんと出来るはず。 卵白を泡立てメレンゲを作るんだけど、これは結構腕がキツい。滅多に使わないくせに、ハンドミキサーが欲しくなった。きっと明日は筋肉痛だと諦めながら、それでも必死にツノが立つまで掻き混ぜた。 全ての作業を終え、温めておいたオーブンへ生地を入れ焼き始める。 初めてのお菓子作り。順調にここまで出来た。 出来上がりが楽しみだ。 後片付けをしながらひとまずコーヒーを淹れ、俺はリビングでゆっくり焼き上がりを待った。

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