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志音のValentine's Day③
仕事終わり、俺は悠の店に寄る──
ここのところ忙しかったのと志音の家に行ったりで、店にはあまり来ていなかった。
久々の悠の店。
相変わらず客が少ない……
今日はテーブル席に男女のカップルと、男同士のカップルの二組だけ。
「相変わらず静かな店だな」
俺は笑顔の悠に声をかけ、カウンター席の端に座った。
「陸也久々だな。今日は一人なの? 志音はお留守番?」
「いや、そんなしょっ中会ってるわけじゃねぇよ? 今日は俺一人だよ。相手してよ」
こいつは付き合いが長いから、軽口叩いたり相談に乗ってもらったり……
俺の事を理解してくれ助けてくれる大事な親友だ。
だからここは俺にとって居心地のいい場所だった。
「さっきね、志音見かけたよ。スーパーでカート押して買い物してた。あいつ本当に目立つよね。あんなにショッピングカート押す姿がカッコいい奴初めて見たよ」
そう言って悠は笑う。
「なに? 悠もスーパーに買いもの?」
そう言う悠だって、長身でなかなかのハンサムだ。モデルと間違えられる程。本人は全く自覚がないけど。
悠と志音がスーパーで並んでる姿を想像して、どんだけ目立ってたんだよ、と可笑しくなってにやけてしまった。
「きもっ! 何ニヤけてんだよ。大丈夫?……そうそう、志音ね、製菓用のチョコ買ってたぞ。あれ多分さ、バレンタインで何か作るんだよね。健気で可愛いね」
志音がチョコ? バレンタイン……
ああ、もうじきバレンタインか。
今年は何個貰うんだろう。
ぼんやりと考えてると、悠に顔を覗き込まれた。
「……?」
「陸也はどうすんの? 志音に何してあげるの? チョコ? チョコ? 」
楽しげに話す悠。
「なんで俺? バレンタインだろ? 俺男だし……別になんもしねえよ?」
悠が俺の言葉にポカンとしている。
「………… 」
俺はそんな悠を気にも留めずにウイスキーのお代わりを催促した。なんだかつまらなさそうな顔をして悠が俺の前にグラスを置いた。
「お前、そんなんで大丈夫か? 気が利かないなぁ……」
「は? 余計なお世話だって。別に大丈夫だし」
「ふうん……そうなんだ」
確かそんな会話、してたよな──
まさかあんなに怒るとは思わなかったんだよ。
久々にやっちまった。
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