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俺たちの形②
「実はさ、悠さん知ってるだろ? 俺、悠さんと付き合ってるんだ……」
実に恥ずかしそうに、もう既に俺が知ってるだなんて思ってもいないであろう敦が小さな声でコソっと言う。俺は敦が悠さんと付き合い始めたって先生からも聞いていたし、悠さん本人からもちゃんと報告を受けている。そもそも付き合い始めたと聞いてからもう半年は過ぎてるぞ? 敦の話に期待してしまっていた俺は、この今更な話にがっかりした。
「もしかして話ってそれだけ? お付き合い報告なんてもう俺知ってるし、面白くないんだけど……」
はっきりとそう言うと、敦は「いやいや……」と話を続けた。
「でな、今度二人で一緒に住むことになったんだけど……」
「え? 同棲すんの? やったじゃん! よかったね、おめでとう……あ! もしかして最近真雪さんと話し込んでたのって、この事?」
ここ最近の事務所での二人の様子はこれだったのか、と察しがついた。
俺は真雪さんが用意してくれた住まいで高校の時から一人暮らしをさせてもらっているけど、基本的に好き勝手に自分で住むところを決められない……というか一応はセキュリティーやら場所やらで社長の真雪さんにはお伺いを立てないといけないらしく、引っ越すだけならまだしも同棲となれば色々と聞かれて面倒だったと敦は話す。
俺も先生と同棲となったら真雪さんはなんて言うだろう? 真雪さんは先生のこと気に入ってくれてるし認めてくれているから反対はされないだろうけど……敦のすぐ後じゃなんだか言い出しにくいよな。俺たちの同棲は当分後になっちゃうかな……なんて、俺は敦の話を聞きながらちょっと残念に思った。
「なんか大変なんだね」
「いや、住むとこはすんなりオーケーしてもらえたんだけどさ、そのあとに俺のサプライズ計画を話したら大反対されちまって……」
ぷうっと口を尖らせる敦を見て嫌な予感が走る。いかにも「早く聞け」と言わんばかりに俺を見てるから、しょうがないから聞いてやった。
「……サプライズ計画って?」
案の定、嬉しそうな顔をして話し出した。その話の内容を聞きながら、俺は敦の能天気さにちょっと怒りを覚えた。
「そんなの真雪さんに反対されるの当たり前じゃん! バカでしょ?」
敦の計画していたサプライズというのは、要は公開プロポーズ。
敦が悠さんにプロポーズするのを公開したいというものだった。敦が言うには、悠さんへのケジメと、何より色々な噂の絶えない敦に対して不安に思っているであろう悠さんを安心させてあげたいという気持ちから、この考えが浮かんだんだという……
言いたいことはよくわかるけど、それって敦の独りよがりじゃん。悠さんはどう思うの? 大勢の前に曝されてプロポーズなんてされてみろ。同性だってことだけで好奇の目で見られるわけだし、俺ならそんなことされたら絶対素直に喜べない。悠さんが自分のセクシュアリティをオープンにしているならともかく、そういう話は聞いたことがない。少なくとも俺には悠さんがオープンにしているとは思えなかった。
「そんな自己満足押し付けられたら俺なら軽蔑するね」
「そこまで? 酷えな ……こういうの嬉しくねえ?」
敦は今まで軽い気持ちで付き合っていた奴がいっぱいいた。それは女に限らず男も。敦曰く、今までのは全部遊びで本気で好きになったのは悠さんだけ。自分のしてきたこと、悠さんの今までの恋愛のこと、それを考えた結果がこの公開プロポーズだったらしい。とにかく沢山の目の前で「絶対」という事を宣言して安心させたいのだそう……
「悠さんってさ、異常なまでに自分を犠牲にする……っていうか自分を抑えて遠慮する、っていうの? 自信がないのがわかるから、極端な事をやって丁度いいと思うんだよな。みんなから幸せになっていいんだよって認めてもらえれば悠さんだって素直に俺のこと信じて自信がつくんじゃないかなって。あ、あと悠さん別にゲイだってこと隠してねえよ? 聞かれないから言わないだけで、聞かれればちゃんと話してるって。だからそんな神経質にならなくても……」
「………… 」
敦の言うこと、ちょっとわかる。
でもやっぱりデリケートな事だから、敦の計画はやりすぎだと思って俺は反対した。
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