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俺たちの形⑤

「志音はさ……俺と一緒にいて幸せだよな?」 「は? 何今更なこと言ってんの? ……幸せだよ? そんなの陸也さんわかってるでしょ?」  自信無さげに俺の顔を見つめる先生。俺と目が合うと先生はぷうっと頬を膨らませ、先程吐き出してしまった自分の弱音のようなものを誤魔化すかのように「だよなぁ」とおどけて見せた。 「俺たちはこれでいいんだ……何が結婚だ……適齢期だ……子作りだ……うるせぇっつうの」  先生はまるで機嫌を損ねた子どものようにブツブツとそう言いながら、俺の胸に顔を擦り寄せてくる。飲み会で何か言われたのかな? それこそそんな話も今更だし、誰に何を言われようとそんなの気にするような人じゃないのに、と不思議に思った。 「でもさ、陸也さん今何歳だっけ? 結構もういいおじさんだよね?」  俺はちょっと意地悪くそう言ってみせる。ガバッと顔を上げ俺のことを睨む先生に可笑しくなって思わず吹き出してしまった。 「おじさんなんて言うなよ……気にしてんだから。そりゃ志音と比べたらじじいかもしれないけどさ、こればっかりはどうすることも出来ねえだろ」  じじいはちょっと言いすぎだよね。俺は先生のこと、若くてカッコいいって本気で思ってるのに。でもシュンとする先生を見て、自分も同じに思う。実際の話、この歳の差はこの先どうやったって埋めることなんてできないんだ。付き合い始めの頃から自分の幼さに何度も自己嫌悪し、そして早く大人になりたいって何度思ったことか…… 「なんだよ、陸也さんらしくないじゃん。何言われたらこんなになっちゃうの? 俺まで嫌な気分になっちゃうから、そういうのもうやめてよ」 「ごめん。学校関係の飲みでさ、俺より年上……てか自分の親くらいの年齢ばっかだったから、やれ結婚しないのかだの子どもはいいぞだの……なんか俺ばっかターゲットになっちまって居心悪かったのなんのって。恋人がいるなんて口走ったら最後、お相手の婚期が遅れて可哀相だって一斉攻撃。どうでもいいし余計なお世話だよな」  ごめんと言いながら、俺に抱きつきキスをする。お酒が入ってる時の先生はちょっとだけ甘えたで可愛い。でも今日の先生はかなり酔っ払っているから甘えたに加えてイヤらしい。無意識なのか、エロオヤジばりに俺の尻を撫でてくるからその手をピシャッと叩いてやった。 「婚期が遅れる心配はしてないから大丈夫。だって俺の記憶が正しければ、付き合うことになった初っ端に陸也さんから俺プロポーズされたからね……って覚えてる? 大丈夫?」  ポカンとしている先生の頬を軽く抓って笑って見せたら、少しだけ目を泳がせた先生も一緒に笑った。  別に忘れてたっていい。  あの時、そんなつもりで言ったんじゃなくたっていい。そんなの関係なく、俺は死ぬまで先生と一緒にいるつもりだし、きっとそれはお互いに思っていることだから。  ちゃんとわかっているから大丈夫。 「でさ、こんな話題の時になんなんだけど敦からちょっと頼まれごとがあって……」  俺が敦の名前を出したら、わかりやすいくらいイヤな顔をする先生。普段ならこういうのもあまり顔に出さないんだろうけど、これだけ酔っ払ってちゃ感情を隠せないんだろうな。先生と付き合う前の頃、俺は敦にキスをされた。それを目撃した先生は今だにその事を根に持っているから敦のことはあまり好きじゃないんだと思う。でも悠さんに免じて大目に見ている……と言っていたことがあったっけ。  敦と付き合うようになった悠さんを辛い目にあわせたらただじゃおかないって。 「は?……敦がなんだって?」  不機嫌丸出しの先生に、今日あったことを細かく説明した。 「………… 」 「陸也さん? 聞いてた?」  俺の話を聞いていた先生は、ぼけっとしたまま何も言わなくなってしまった。そしてハッと我にかえったと思ったら、俺が敦に言ったことと同じことを俺に言った。  悠さんのことを心配する先生。  俺には何もなかったと言ってるけど、先生にとって悠さんは特別な人なんだって俺はわかってる。妬けちゃうけどこればっかりはしょうがない。悠さんがいたからこそ俺はこうやって先生と一緒になれたんだ…… 「大丈夫だよ。敦は悠さんを守る覚悟も出来た上で皆んなの前で誓いたいって言ってるんだよ? 幸せな気持ちにしてやりたいって一生懸命なんだ。見守ってあげようよ。悠さん、きっと驚いて泣いちゃうかもね」  先生は複雑な表情を見せたけど、結局は納得して招待状を受け取った。

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