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俺たちの形⑦

「凄いね……あそこにいるのって仁奈だよね? 超可愛い……あっ! ほら! 修斗さん見て! ……すっげ! 芸能人あっちにもいる! 見て!」 「康介うるせえ。わかってるよ……あっ! こら! 指差してんじゃねえよバカ、失礼だろ」  レストランの中庭に案内され、指定されたテーブルの前に集まる。竜太君達は俺たちのテーブルのすぐ隣。康介君がさっきから会場にいる有名人を見つけては嬉しそうにはしゃいじゃって修斗さんに窘められていた。  仲の良い先輩と後輩、それでいて他人とはちょっとだけ違う二人の距離感。その特別な距離感が俺は高校の頃は羨ましく思っていた。まさに「喧嘩するほど仲が良い」というこの二人と、竜太君と周さんのように絶対的な信頼感を持っているように見える二人。俺は先生と恋人同士でも、いつも迷惑を掛けてしまっている、頼り切ってしまって甘えている、俺からの一方的な恋愛になっていないかとよく不安になった。俺と先生も年が近ければこんな風に接することができたのかな? もっと先生も俺に対して遠慮なんかしないで甘えたり文句を言ったりしてくれるのかな?……なんて、こんなしょうもないことを悶々と考えてしまったこともあったっけ。 「なに? 志音君、笑うなよ。見てんじゃねえよ」  思わず康介君を見つめてしまっていて、気が立っていた修斗さんに俺まで怒られてしまった。いつ見ても微笑ましいな……なんて思ってたのが顔に出てたのか、別に笑っていなかったのにそんな風に言われてしまい、しょうがないからとりあえずゴメンと謝った。  すぐ後に例の仁奈が俺に気がつき挨拶をしに来たお陰で、仁奈の姿に驚いた康介君は固まったように動かなくなってしまい、すっかり静かになった。  退屈そうにぼんやりしている周さん、その横で料理やデザートを見て嬉しそうにしている竜太君、陽介さんは俺の知らない人と親しげに立ち話をしていた。 「志音? 顔、強張ってる……何緊張しちゃってんだよ大丈夫か?」  先生は俺の顔を見て心配してる。先程、ど緊張している敦を控室まで見送ってきたのだけど、ほんと俺までバカみたいに緊張してしまって胸が苦しい。これから何も知らない悠さんは突然タキシードに着替えさせられ、この会場に敦と一緒に入場するんだ。そんな悠さんの気持ちも考えたら、これもまたどうにも胃が痛い…… 「もうすぐ時間だ……見届けような」  先生に頭をポンと撫でられ、俺は緊張を逃すように小さく深呼吸した。  陽も落ち薄暗い中庭に明かりが灯る。綺麗に手入れのされた庭園に華やかにライトアップされたパーティ会場。思い思いに談笑していた50人程の招待客が会話をやめ、皆が入り口の重厚な扉を見つめた。  俺や先生も含め、招待客の何人かは手に一輪のバラの花を持っている。敦が入場時にそれらを受け取り、小さなブーケにして悠さんに手渡すのだそう。  最近の結婚式の演出でよく行われるというダーズンローズ。  どうやらこのバラ一本一本には意味があり「感謝」「誠実」「幸福」「信頼」「希望」「愛情」「情熱」「真実」「尊敬」「栄光」「努力」「永遠」という思いが込められているらしい。そしてブーケを手渡した相手に、自分達に相応しい意味のバラを選んでもらう、という演出だ。  でも敦は悠さんにそれを選んでもらうということはせず、全ての思いを込めてプロポーズの言葉と共にブーケを手渡すのだと言っていた。  俺と先生に渡されたバラは「愛情」と「永遠」のバラ。俺もこの全てのバラの意味を知っていたとしても一つを選ぶのはきっと難しい。手渡された可愛らしいバラを眺めつつ、愛しい先生の顔をそっと見ると、先生も俺と同じように自分に渡された一輪のバラをジッと見ていた。  もし先生だったらどのバラを選ぶのだろうか……俺はそんなことを考えながら、敦と悠さんの入場を待った。

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