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俺たちの形⑧
小さなベルの音と共に、入り口の扉がゆっくりと開く。
開いた扉の向こうには笑顔の敦と、敦とは対照的に戸惑った表情の悠さんの姿があった。二人ともデザインは多少違うものの似たような色合いのタキシード姿。悠さんも普段とは違い髪もしっかりとセットされていて、敦に負けず劣らずモデルのようにカッコよかった。
「……凄い、悠さんカッコいい」
思わず二人に見惚れてしまう。
会場のみんなが二人に祝福の拍手を贈り、敦と悠さんはその場で一度深々と頭を下げた。頭をあげた二人は入り口から真っ直ぐ進み、各テーブルを回るようにゆっくりと歩いてくる。敦の手が、戸惑っている悠さんの指先を優しく掴んでいるのが見えた。
「……ありがとな」
二人が俺たちのテーブルに来ると、敦が俺に向かって小さな声でそう言った。俺も先生も敦にバラを渡して、隣のテーブルに向かう後ろ姿を見送る。悠さんは耳まで真っ赤にして恥ずかしがっているようで、こちらまでその緊張が伝わってくる。敦の思いと悠さんの気持ちに想いを馳せていると、徐に先生が俺の手をそっと握った。ドキッとして横目で見ると先生はまっすぐ二人を見つめたまま目に涙を浮かべてるのがわかった。
「陸也さん……? 大丈夫?」
「ん……どうもしねえよ。ちょっと感動するな」
泣きそうになっていたのが恥ずかしかったのか、先生はプイッと俺から視線をそらす。そんな先生が可愛く見え笑顔になるも、何故だか俺まで目の奥がジワッと熱くなった。
……案外涙脆いのは俺も一緒なのかな。
この会場の最前に、花で飾られた小さな台がある。一通り席を回った二人はその台の前に立つと、敦が何か耳打ちをしながらそこに悠さんを立たせた。
「悠さん……悠さんはすぐに自分の気持ち押し込んじゃうところがあるだろ? 俺とのことで不安に思ったり心配に思ったり、俺ちゃんと知ってるよ」
「………… 」
真剣な眼差しの敦。決して大きな声ではなく、悠さん一人に向かって発せられたその言葉だけれど、この会場の皆んなにもはっきりと聞こえ、ちゃんと敦の思いが伝わってきた。
真っ赤になってなにも言えないでいる悠さんに敦は続ける。
「悠さんが不安に思わないようにね、ここにいる俺の大切な人たち、悠さんにとっても大切な人たち皆んなに俺は誓うから……嘘はつかない、隠さない」
いつも自信に満ちた敦の手が震えている。小さく震えるその手で、ブーケの中から一輪バラを取り出し、悠さんの胸にそっと挿した。
「悠さんは俺が幸せにするから。俺のことも幸せにしてよ……ずっと側にいさせてください。お願いします。そしていつかは俺と結婚……してほしい。愛してる」
「……何やってるの? こんな……誰が見てるか……わからないような場所で…… 」
敦のプロポーズに悠さんは怒っているような口振りでそう言ったけど、その顔は全然そんな事なくて、目には涙が溜まっている。そんな悠さんに敦は優しく笑いかけ、手に持っていたブーケをずいっと前に差し出した。
「俺のけじめだよ。悠さん? 一応これ、公開プロポーズなんだよね。皆んなが見てるよ? 恥ずかしいから早く返事、聞かせてよ……」
「バカやろ……こんな事して…… 」
やっと悠さんが笑顔になる。クシャッと笑ったかと思ったら、その目から大粒の涙がこぼれ落ちた。
「派手な事、好きなんだよね。……ゴメンね。怒った?」
緊張がとけたのか、敦がおどけて悠さんの顔を覗き込む。堰を切ったように悠さんの瞳から涙がどんどん溢れてきて、その涙を敦は指先でそっと拭った。
「怒る……わけない……敦は……俺が幸せにするから。一生側に……いて」
そう言って悠さんも敦の胸にバラを一輪そっと挿す。二人が見つめ合い涙が溢れる笑顔を見せると、周りから盛大な拍手が湧いた。
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