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俺たちの形⑨

 泣いている二人にどうしても自分を重ねて見てしまう。  幸せな気持ちと共に胸の奥底で燻っているモヤっとした気持ち。好き合っていることをオープンに出来ないのは同性同士だから……単なるプロポーズ、誰もが普通に行うことの出来るはずのプロポーズですら周りの目を気にして、公になってしまった時を覚悟しなくてはいけない。不貞をしているわけじゃないのに、非難されたり好奇の目に晒されたり、ただ恋をしているだけなのに何でそんなリスクを負わなきゃいけないんだろう。勿論俺の周りには祝福をしてくれる人が殆どだと思うけど、それでも世間の目は違うんだ。  この場でプロポーズをした敦、それを受け入れた悠さん、二人の思いや覚悟を考えると俺の思いなんてまだまだ小さいのかな、なんて思ってしまう。  悠さんの涙につられてか、俺の隣でぽろぽろと涙をこぼしている先生にハンカチを手渡す。  先生はどう感じたのだろう。  先生は付き合うことになって最初に、俺に向かって「家族になってくれ」と言ってくれた。それがもう既にプロポーズのようなものなのだけど、あの時の先生はどんな思いで俺にそう言ったのだろうか。今の敦のように覚悟を決めて言ってくれたのだろうか……いや、やっとお互いの思いを認めて「付き合おう」となったばかりの状況で覚悟もクソもないよな。俺はまだ高校生だったわけだし。勢いでぽろっと口から出てしまったのかもしれない。  保健医とはいえ先生と生徒。俺は未成年……  高校を卒業するまでに色んなことがあった。  先生の中から俺の存在が消えてしまったこともあった。もう一緒にはいられない……挫けてしまったこともあった。それでも俺の先生に対する思いは変わらなかったし、きっとこの先も同じだと思う。先生のご両親のお墓にも連れて行ってくれ、俺に挨拶をさせてくれた。今までの先生が俺にしてくれたこと、言ってくれたこと、それらがもうその答えなんだろうと思うとグッとくるものがある。俺は当たり前のようにこの先もずっと先生と一緒に過ごしていくのだろう。 「悠さん……良かったね、あんな幸せそうに笑う悠さん、俺初めて見た」  先生はもとより、隣のテーブルでも竜太君や康介君も感動して泣いていた。彼らもまた同じように同性同士の恋愛をしているから、きっと色々思うことがあるんだろうな。  敦のプロポーズの後は招待客皆んなで、用意されていた食事を楽しむ。敦と悠さんはお互いケーキを食べさせあったり、各テーブルでお喋りをしたり、やっぱりこれは結婚式のようで、俺は幸せな気持ちを沢山お裾分けしてもらった気分だった。  パーティーもお開きになり、各々家路につく。  俺も敦と悠さんに挨拶を済ませて、先生と二人で家に帰った。俺のマンションに着くまでの間先生の口数は少なくて、疲れてしまったのかな? なんて思った俺はなるべく話しかけないよう大人しくしていた。先生は電車に揺られてすぐに俺にもたれて寝てしまったから、やっぱり疲れてたんだな……と俺も肩に寄り添い少しだけ眠った。

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