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康介の誕生日③

康介の誕生日当日は、いつもの場所で待ち合わせをした。 何度も康介にはどこに行きたいのか聞いたんだけど「いいからいいから……」とはぐらかす様な返事ばかりで結局教えてはもらえなかった。 欲しいものも「何でもいい」の一点張り。 そういうのって何にしようか迷うんだよな……でも、考えて考えてやっと決めた。 喜んでくれるといいな。 待ち合わせ場所のカフェにひと足先に到着した俺は、窓に向いた席に座りコーヒーを飲む。 ……康介遅えな。 いつもなら俺より早く来ていて待っててくれる康介なのに、今日に限って約束の時間もとっくに過ぎてる。遅刻なんて珍しいな、とぼんやり思う。行きたいところも知らされてないし、康介が俺にしてくれたみたいに、本当は店だって康介の行きたい店に事前に予約しておきたかったのに…… なんとなしに携帯を弄っていたら肩を叩かれ振り返った。そこにはちょっとだけ息を荒くした康介が立っていた。 「ごめんなさい、遅くなっちゃった……待ちました?」 申し訳なさそうな顔をして、俺の横に腰掛ける康介。 「ん? 大丈夫、俺もついさっき来たばっかだから……て、何それ? 今日のバッグ大きくね? 何持ってきたの?」 普段遊ぶ時はは手ぶらか小振りなボディバッグが多い康介だけど、今日はしっかりとしたリュックを背負っている。 「え……えと、あの……ちょっと……」 なぜかしどろもどろになりながら、康介は俺の耳元に顔を近づけ内緒話をするように耳に手をかざした。 「あの……明日土曜日だし……ね、俺お泊りしたいんです。いいですか?」 内緒話なのに更に小さな声でそう囁いた。 可愛いの…… 耳にあたる康介の息がこそばゆくて、首を竦めながら少し離れる。 「ふふっ…… もちろん大丈夫だし。そんなの今更聞くことでもないだろ?そっか、その荷物はお泊りセットね」 俺がそう言うと、恥ずかしそうに顔を赤くしてコクコクと頷いた。お泊りセットって言ったって、今までそんな荷物持ってきたことなんてなかったのにな…… ちょっとリュックの中身が気になったけど、行きましょうって腕を取る康介に急かされて俺達はカフェを出た。 「じゃ、どうする? どこ行きたい? まだ飯には時間あるしな」 俺は取り敢えずショッピングかな? 映画かな? カラオケかな? なんてワクワクしながら康介を見る。 「え……えと、いや、あの……だから」 ハッキリせずに何か言いたげな康介をみてイラっとしてしまった。 「なんだよ、今日の康介もじもじしてて変っ! 何? ちゃんと言ってくれる?」 俺がイライラを隠さずに文句を言ったら、肩を掴まれグッと引き寄せられる。 急な康介の行動に一瞬ドキッとしてしまったけど、すぐに耳元で言われた言葉にポカンとしてしまった。 「ホテル……今からラブホ行きたい……」 ……確かに言ったな? 今からって。 「はぁ? まだ早えだろ! 何考えてんの? 康介の誕生日だよ? 楽しくデートしてさ、二人でいい感じの店で飯食ってさ、お祝いしたいじゃん。俺……喜ばせたくて張り切って来たのに……なんだよいきなりラブホってさ!」 「ちょっ! 修斗さん声大きい! ごめんなさい……怒らないで。俺、俺……誰にも邪魔されずに早く二人きりになりたかったから……」 「………… 」 まあ、洒落た店で飯食ったりケーキ食ったり楽しくデートしてみたりって俺はイメージしてたけど……そもそも俺が康介の好きなようにって言ったんだ。 「ごめん、康介。いいよ、わかった。でもさ、店で飯食ってさ、誕生日らしくケーキくらいは買わせてよ」 なんだよ、ムードもクソもねえな……って内心思いながら、俺はレストランに予約の電話を入れた。

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