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今年のHalloweenは/高坂と志音③

電車に乗り、周りを見るとチラホラとハロウィンの仮装をした人がいる。 よくあの格好で出歩けるな。俺は座っている足元にある紙袋を見下ろした。 さっきまで俺が着ていたコスプレ衣装とウイッグ……小悪魔衣装、可愛いって言われたけど、こういうの先生はどう思うかな? 喜ぶ……かな? 「………… 」 いや、逆に先生がこういうのを着ていたら? いや! ありえないから! 似合わなすぎて笑える! 電車の中で一人妄想して、危うく笑いそうになってしまった。 一瞬でも、先生の反応が見てみたくて着てやろうかな? なんて考えてしまったのが恥ずかしく、頬が火照る。こんな格好をしたってきっと先生は喜ばないよね。 先生のマンションまであと少し、何か飲み物でも買っていこうかな。ハロウィンから気持ちを切り替え、俺は電車を降りて歩き出した。 「お、意外に早かったな。おかえり」 合鍵で先生の部屋に入るとキッチンから先生の声が聞こえる。 「うん、お邪魔します」 俺は玄関先に邪魔な荷物を置き、そそくさと声の元へと向かった。 ラフな格好でキッチンに立つ先生。髪をゴムで無造作に後ろで結き、俺の姿を見て笑いかけてくれる。 久しぶりの先生の部屋……ちょっとドキドキした。 「陸也さんの手料理久しぶりだな。 今日はなに作ってるの?」 手際よくフライパンを煽る先生に聞いてみると、視線も上げずに「トマトクリームのパスタ……」と呟く。 「急に来るって言うからさ、材料何もなかったわ。買い物行ってる間に志音が着いちゃってすれ違うのも嫌だし。だからトマトとツナ缶あったからパスタにした。簡単でごめんな。野菜ならあるからさ、サラダでも作ってくれる? あ……ニンニク大丈夫? まずかったら志音の分は別に作るけど……」 「ん、大丈夫だよ。明日は仕事ないし。ねえ、すれ違うって言ったって俺、合鍵持ってるじゃん。買い物行っても大丈夫だったのに……」 急に来るなんて言って悪かったかな、と思ってそう言った。 「だってよ、すれ違っちゃったら志音におかえりって言ってやれないだろ?」 あ……そういうことね。なんか嬉しいな。 「うん。そうだね。ありがとう」 先生の作ったツナとトマトクリームのパスタを二人で平らげ、俺は先に風呂に入った。 やっぱり先生の作る料理は美味い。 (だってよ、すれ違っちゃったら志音におかえりって言ってやれないだろ?) さっきの先生の言葉を思い出して少し顔がニヤける。 ただいま…… おかえり…… もし俺が卒業してさ、先生がいいって言ってくれたら一緒に住みたいな。 どんなに仕事が忙しくても疲れてても、先生に「おかえり」なんて言ってもらえるなら疲れもきっとすぐに癒されちゃうんだろうな。 湯船に浸かりながら甘ったるい夢を見ていた頃、先生の機嫌がみるみる悪くなってるなんて俺は知る由もなかった……

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