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不思議なXmas④/鞄の中のエアメール
「でもさぁ、なんでかな……このサイズ、中途半端じゃね?」
圭ちゃんが俺のことをじろじろと見る。
「だってさ、ドラマとかアニメとかでもあるじゃん。恋人が小さくなっちゃったっていうの。胸ポケットに入れて出歩いたりしてるだろ? それやろうにも陽介のそのサイズじゃ目立ちまくりで無理じゃね?」
……そうなんだよな。
もうちょっとだけ小さけりゃ、今圭ちゃんが着ているジャケットの胸ポケットに違和感なく入れそうなのに。
ていうか、そこ?
俺の体、どうしちゃったんだろう……
普通そこが心配で怖いはずなのに、俺は今は圭ちゃんに会えた事で舞い上がっていたから、そんな事はどうでもよかった。
きっと夢の中なんだろうし。
「なあ陽介、腹減ってない? 俺これから親父達と飯行かなきゃいけないんだよね。すぐ戻るし、待っててくれない?……てか消えないよね? 鞄とかに入れて連れて行きたいんだけど、潰しちまいそうで怖いんだよ。食べ物も持ってくるからゴメンな。少しだけここで待ってて」
申し訳なさそうな顔で俺の事を見つめる圭ちゃん。
全然、いくらでも待ってやる。
「いいよ。ちゃんと戻ってきてね。待ってる」
そう言って圭ちゃんを笑顔で送り出し、俺はまたベッドに横になった。
「………… 」
このまま、また目を瞑って眠ってしまったら夢から覚めてしまいそうだったから、眠らないように体を起こす。
ベッドの上からまわりを改めて確認すると、いたるところに間違いない圭ちゃんの痕跡があった。
茶色いチェックのマフラー。
手帳……
あ!
あのブックカバー、俺とお揃いで買ったやつだ。
俺はあんまり読書をしない。でも圭ちゃんがブックカバーを買うと言うからお揃いのが欲しくて俺も真似して買ったんだっけ。
いつも使っていた大きめのボストンバッグ。
無造作にベッドの隅に転がってるそのボストンバッグに寄ると、開いた口から音楽プレイヤーとヘッドホンが飛び出していた。
え?
これって……
最後のクリスマスの日、圭ちゃんが俺にプレゼントしてくれたペンケース。革の色が少しだけ違っていたけど、でもこれは俺が貰ったのと同じ物だ。
「はは……圭ちゃんってば」
俺が圭ちゃんにあげたのはネックレス。
圭ちゃんに内緒でお揃いにした。だから今も俺の胸の上に一緒にいる。
……圭ちゃんも俺と同じことしてやんの。
「バカな圭ちゃん。やっぱり俺のこと大好きなんじゃん」
愛おしさがこみ上げてきてまた泣けてきてしまい、シーツを手繰り寄せ頭から被った。
圭ちゃんの匂いがする。
しばらくの間シーツに潜り込み、涙が落ち着くまで丸まって俺は泣いた。
俺、せっかく圭ちゃんと会えたのに、泣いてばっかじゃん。
圭ちゃんだって泣いてねえのにさ。
夢でもいい。
この幸せな時間、楽しまないと勿体ねえや。
気を取り直し、シーツから顔を出す。圭ちゃんはもう少ししたら帰ってくるかな? 俺はまたぼんやりと圭ちゃんのバッグを眺めた。
「……?」
さっきは気がつかなかったけど、バッグの奥にエアメールの束が見えた。
少しバッグの中へ潜り込むようにそこへ行くと、輪ゴムに括られたエアメールの封筒が数枚押し込まれるようにしてそこにあった。
バッグの中で見つけた手紙。
よく見てみると、宛名のところには俺の名前が書かれていた。
これは、俺宛の手紙。
でも俺が勝手に見ていいものではないと思い、一度は手に取ったもののまた元の場所に戻し、俺は圭ちゃんのバッグから這い出した。
手紙の内容、気になるけど何となくわかる。
わかってしまったから俺は胸が痛かった。
俺はここにいていいのかな?
……いや、どうやってここに来たのかわからないけど。
圭ちゃんの頑張りを邪魔してないだろうか。
俺が圭ちゃんに会いたいっていつまでもグズグズ考えてたから、こんなことになったんじゃないのかな。
「………… 」
ベッドに座り込み考える。
もう一度圭ちゃんの書き溜めたエアメールの方を見ると、そのバッグの奥で何かがゴソゴソと動いていた。
「……?? 」
俺以外誰もいないはずのこの部屋で、何かがゴソゴソ動いてる。
……は? 何? 怖え。
一気に心臓の鼓動が早まり、少しずつ俺はその場から後退した。
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