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不思議なXmas⑤/小さいオッさん
一定の距離を保ち、息を潜める──
圭ちゃんのバッグの奥でもぞもぞと蠢く何かを凝視しながら、恐怖に息を吸うのも忘れていた。
少しずつその "何か" がバッグから出てくる。
俺の目の前に見えてきたそれは、俺よりもさらにひと回り小さい人の形をしていた。
「……誰? 何っ?」
完全にバッグの中から出てきたその人は、無精髭を蓄えた中肉中背の男性、俺よりも少し小さく、赤いセーターに短パンという異様な出で立ち。なんだかよく見かける中年おじさんそのものだった。
……!?
俺の姿を見るなり「ホーッホゥホゥ!」 とアホみたいなデカい声でそのオッさんは楽しそうに笑った。急に大きな声で笑うもんだからびっくりしてひっくり返りそうになる。
「なんだよ! オッさん! 脅かすんじゃねえよ!」
思わず声に出し睨みつけたけど、違う……今の笑い声はこのオッさんが発した声じゃない?
なんだろう……
頭の中に直接笑い声が響いていた。
俺のことを見ながら首を傾げているオッさん。一体こいつはなんなんだ?
やっぱり怖え!
ニコニコして俺のこと見てるよ!
やべえ、どうしよう……怖すぎる。
その不審なオッさんは、ニコニコしながら俺の方へジリジリと近づいてきた。もう怖くて目を逸らせない。近づいてくるオッさんに距離を詰められないように、俺も少しずつ後退りする。するとまた立ち止まり、さっきと同じように頭の中に声が響いた。
『素直ないい子にはきっといいことがあるよ』
頭の中に響き渡るその声が何を言っているかよりも、気持ち悪さが先に立ち、俺はわーわー言いながら自分の耳を両手で塞ぐ。
それと同時に、部屋のドアが開いた。
「圭ちゃん!」
慌てて振り返り圭ちゃんの方へと走る。
「よかった……陽介、ちゃんといる」
圭ちゃんがホッとしたような顔で俺の事見るけど、俺はそれどころじゃない。
「圭ちゃん! 変なのいる! ヤバい怖い!」
ベッドに腰掛けた圭ちゃんの太腿から必死によじ登りしがみついた。
「ちっさいオッさん! ねえ! 気持ち悪いオッさんが!」
「ちっさいオッさんて、小さいの陽介じゃん」
「………… 」
圭ちゃんは俺に「落ち着け」と言いながら、楽しそうに笑っている。
「俺じゃなくて! ……あそこ、変な奴いる……」
圭ちゃん越しにさっきの場所を覗き見る。
圭ちゃんもそんな俺を見て、自分のバッグを引き寄せた。
「……? 何もいないけど?」
「………… 」
いなくなった?
「や、さっきまでいたんだよ。俺よりもちょっと小さくて中年のおじさんが」
腑に落ちず、もう一度さっきの場所を確認する。でも怖いから圭ちゃんからは離れない。
圭ちゃんの腰の辺りから後ろを覗き込み何度も見回したけど、結局さっきのオッさんはもうどこにもいなかった。
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