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新しい生活③/帰宅
「………… 」
二人して電話口でだんまり。
欲を吐き出しスッキリはしたものの、やっぱり全然物足りない。余計に虚しくなっただけだった。
「康介のせいだかんな」
さっきから黙り込んでる康介に思わず文句を言ってしまった。
『……ごめんなさい』
シュンとうなだれてる康介が目に見えるよう。
違うんだ……
康介は何も悪くないのに。
「ごめん、そうじゃないよな。康介が悪いわけじゃない。俺、離れて寂しくてさ、ついあたっちゃった。帰ったら本当に康介んち直で向かうから。もう少し頑張るから、康介も待ってて……」
やっぱり顔が見えない分、電話だと素直に言いやすいかもしれない。
『素直な修斗さん、可愛すぎるからやめて……』
きっと赤くなって困り顔をしている康介が、小さな声でそう言った。
それ以降は同室の奴が戻ってきたのもあり、夜間の康介との電話も当たり障りのない話をし、一日一日をこなしていった。そして長かった研修期間もあと僅か、明日やっと家に帰れる。
「なんかあっという間だったな。寂しいなぁ」
同室の奴が俺の顔を見てしょんぼりしている。あっという間だなんてどの口が言ってんだ?
「お前早く帰って彼女とやりてえって言ってたじゃん」
同室だったこいつは今年大学を卒業したばかりで俺より年上。でも見た目も若いしチャラいから全然年上って感じがしなかった。そうは言っても話しやすくて気さくな奴だったからよかったな、と今になってそう思う。
「そうだけどよ、ほらさ……研修中って女ばっかだし、ここ可愛い子多いじゃん? なんか楽しかったなぁって今になって思うわけよ」
……やっぱりチャラいなぁ。彼女いるんだろ?
「でもあれだわ、これだけ女だらけの職場で勿体無いよな。修斗君はさ……」
こいつの言いたいことはすぐにわかった。
「は? 全然。俺は康介一筋なの。勝手に言ってろ」
俺が夜な夜な電話をしていて、最初のうちこそ部屋の外で話していたけど、段々と面倒になり部屋で話をしていたからか、恋人が「康介」という男だとバレてしまっていた。でも揶揄うわけでもなく軽蔑するわけでもなく、全然変わらず接してくれたから本当に良かった。
「まあ、また会うことがあったらさ、是非その康介君とやらも紹介しろよな。あ! あと連絡先交換しよ」
「今更かよ!」
「交換してなかったよね? 俺、修斗君みたいな楽しい子好きだなあ。あ!そういう意味じゃねえよ? 友達としてね。誤解すんなよ。同期なんだし何かの縁って事で……」
「心配しなくても俺のタイプじゃねえから」
二人で笑いながら、俺たちは連絡先の交換をした。
長くてしんどかったけど、まあ終わって見たらいい経験もできたし楽しかったし、何よりこれから働くにあたって少なからずしゃんとしようって、そう思えた。
翌日、午前の研修を終えた俺は誰よりも早く荷造りを済ませ、挨拶もそこそこに研修センターを後にする。
新幹線に乗り込む前に康介に電話したけど、タイミングが悪かったのか繋がらなかったので、とりあえずメッセージを入れておいた。
お土産も買ったし、大きな荷物は事前に家に送っておいたし、康介の家に真っ直ぐ帰るだけ。
やっと会えると思ってウキウキしながら、俺は新幹線に乗り込んだ。
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