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小さな訪問者③/なるようになれ

「それにしても大人しくて可愛いですね。ふふ……尚ちゃんっていうのか、こんにちは」 キョトンとしたまま僕のことを見ているから、顔を近づけ話しかける。少しだけ間があってから、にこって笑ってくれた。 「周さん! 可愛い! 見て見て! 笑ってくれた!」 僕に興味を持ってくれたのか、にこにこしながら手を前に出してくる。その小さな手をそっと握ってみると柔らかくてふわふわしていて、うん、シュークリームみたいな感じ。尚ちゃん見ていたら甘いものが食べたくなっちゃったよ。 周さんはそんな僕をジトッと見る。 「今朝早くお袋が来てさ、謙誠さんと記念日デートやら何かで二人で出かけるから預かれってこいつ置いてったんだけどよ、俺見てギャーギャー泣くし、お袋はさっさと出たいのか説明も適当にメモだけ置いて出て行っちまうから途方にくれたよ。とりあえず遊んでるうちに慣れたのか、泣きはしなくなったけどな。なんで竜太には初めから笑顔なんだよ。なんかズルいし」 不貞腐れてる周さん、可愛い。 部屋の様子をよく見てみると、あちこちに荷物が散乱していた。周さんがいかに奮闘していたのかがわかる。 でも、雅さんも思い切った事したな。 だって周さんだよ?? 赤ちゃんのお世話なんて、僕だったら不安すぎる…… 「お袋さ、竜ちゃんいるから大丈夫! なんて言って……俺、竜太と会う事言ってねえのによ」 周さんは不服そうに尚ちゃんの頭を撫でた。 あ…… 「それなら何日か前に雅さんから連絡ありましたよ、僕。連休はどうするんだって聞かれたから、周さんと一緒に過ごすって……」 「くそっ! 調子いいなあいつ、全く!」 そもそも僕だって赤ちゃんの扱い知ってるわけじゃないし。 「雅さん、思い切った事しますよね。流石周さんのお母さんです」 もう、ここにきてどうこう言ってもしょうがない。なるようになれ! だよね。 「周さん、雅さんの持ってきたお世話のメモ、僕にも見せてください」 僕がそう言うと、周さんはヒョイっと僕に尚ちゃんを手渡し、ドカドカと散らかっている場所へ行ってしまった。 僕は突然渡された尚ちゃんを落とさないように慌てて抱きしめ、それでも力を入れてしまうと潰してしまいそうでドキドキしながら抱っこした。 本当、周さんたら扱いが雑なんだから! 周さんはブツブツ言いながら、色んなものが散らばっている場所から小さなノートを探し出して戻ってくる。 尚ちゃんが楽しそうに笑いながら僕の顔に手を伸ばし、その小さな手でぱちぱちと頬を叩いた。それを見た周さんは、なぜかプリプリと不機嫌そうにしながら僕から尚ちゃんを引っぺがす。 「ちょっと、周さんもう少し優しく接しないと……さっきから乱暴ですよ。尚ちゃん落としちゃったらどうするんですか!」 「大丈夫だよ、落とさねえって。だってこいつ竜太にベタベタすんだもん…… 」 へ? もしかして焼きもち?……こんな赤ちゃんに、信じられない。 「周さんたら!」 おかしくて思わず笑ってしまうと、それを見ていた尚ちゃんも訳が分からずにつられて笑って、それがまた可愛くてゲラゲラと笑った。 メモを見ると、本当に簡単に書いてあった。 とりあえずもう歯も生えてるし、柔らかくした離乳食を食べ始めているから、ミルクはそんなに時間とか気にせずお腹すかせてるようならあげればいいみたい。粉ミルクとオムツ、着替えとおもちゃ、レトルトの離乳食とおやつも持ってきているらしく、それらが入っているバッグを探そうと散らかっている場所を見ると、今確認した荷物諸々、全てがそこに散乱していた。 「周さん! 粉ミルクひっくり返ってるじゃないですか。え……ちょっと待って、これは汚れたオムツかな?……周さん? ダメじゃないですか脱ぎっぱなしやりっぱなし! もう!」 「だってしょーがねーじゃん、こいつオムツ替えようとしても暴れて投げるし何しても暴れん坊。俺一人で大変だったんだぞ」 周さんの腕におとなしく抱かれてる尚ちゃんをジッと見る。目が合うとキャッキャと笑って、とてもじゃないけど可愛いこの子が大暴れするなんて信じられない…… 「とりあえず片付けましょう。あ、周さんは尚ちゃん見ててください。僕やりますね」 まず散らかった部屋を片付けないことにはしょうがないので、荷物を確認しつつ尚ちゃんのものを一箇所にまとめた。

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