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小さな訪問者④/外出

「周さん? 綺麗なオムツはこれだけ?」 汚れたオムツもそうだけど、まだ綺麗なオムツも広がった状態でちらばった粉ミルクの上に落ちていたりゴミ箱に捨てられていたり、オムツが入っていたと思しき籠の中にはもう二つしか入っていなかった。 「ん? そう、もうねえな。ほら、上手くできなくてよ……いくつか無駄にしちまった」 悪びれる様子もなく、テヘッと笑う周さんに溜息を吐く。 「そもそもよ! こんなに動き回るのに大人しく寝かせて替えらんねえっつうの。ほら、パンツみたいなやつあんだろ? 立たせたまんま履かせられるやつ。それにすりゃいいのになんでコレなんだよな」 あ、CMで見たことある。 パンツみたいに履かせるのあるよね? 「ならミルクも溢れちゃってるし、僕オムツも買ってきますよ。何でもいいですよね? サイズはどうなんだろう……周さん、尚ちゃんって一歳くらいですか?」 サイズはお店の人に聞けば何とかなるだろうと思って、周さんにそう聞いた。 「九ヶ月だって言ってた……てか竜太、買い物行くの?」 「はい。ついでに甘いものでも買ってこようかと思って」 確かドラッグストアの近くにケーキ屋さんがあったはずだし。 「やだ!」 周さんはぷうっと膨れて嫌だと言う。じゃあ代わりに周さんが買い物に行ってくれるのかと思ったらそれも嫌だと駄々をこねた。 ……もう、どうしたらいいの? 「俺と竜太で買い物、尚は留守番!」 「は? そんなの無理に決まってるでしょ。どっちかが尚ちゃん見ていないと。それか三人で出かけるか……」 こんなに小さな尚ちゃんを連れて、外に出かけるのは不安だけど、周さんと一緒なら大丈夫かな? 「それならベビーカーあるぞ。お袋置いてったし。それにベビーカーに乗せねえとこいつヨチヨチしながら暴走するから多分危ねえよ」 周さんの手から逃れた尚ちゃんは、周さんの言った通り、ヨロヨロと立ち上がってはよちよちと歩き、尻餅をついてはまた立ち上がり……と繰り返しながら色んなものを手に取り投げては楽しそうに笑っていた。 ……凄い。 可愛いけど、まるで小さな怪獣だ。 「よしっ、じゃあ出掛けんぞ! 尚! こっち来い!」 周さんが大きな声でそう呼ぶと、落ちていたオモチャのキリンの人形をかじっていた尚ちゃんが振り返る。 「ダァー!」 まるで周さんに返事をしているようにひと声上げた尚ちゃんは、キリンを後ろにポーンと投げ飛ばしてからよちよちと周さんの方へ歩いてきた。 ……可愛い! 周さんにすっかり懐いている様子が見ていてとても微笑ましかった。 尚ちゃんは周さんの目の前まで来ると飛びつくようにして前のめりに転ぶもんだから、慌てた周さんが抱きとめそのまま立ち上がった。 「上着着せて……あ! 帽子だ帽子。なんかお気に入りなんだとよ。これかぶると散歩ってわかるのか機嫌がいいんだって。ほら、はは、上手にかぶったな」 動き回ろうとする尚ちゃんを上手く捕まえてお出かけの準備をする周さん。可愛いクマの耳のついた帽子を手渡すと、尚ちゃんは得意げにそれをかぶる。耳が縦になっちゃってるけど周さんがサッとそれを直してあげた。 なんだかさ…… 「周さん、お父さんみたい」 優しい若いパパって感じ。 ついぽろっと言ってしまった言葉に、周さんは尚ちゃんと対照的に不機嫌そうな顔になった。 「……早く行くぞ」 「はい」 周さんはヒョイっと尚ちゃんを抱きかかえ、反対の手でベビーカーを担ぐ。アパートの階段を降りると手慣れた感じにベビーカーを開き、尚ちゃんを座らせた。

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