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小さな訪問者⑥/再会
「周さん、尚ちゃん抱っこしたままで大丈夫ですか? ベビーカー乗せます?」
尚ちゃんは、さっき買ったおせんべいの事は忘れてしまったのか、とくに欲しがることなく周さんに抱かれて楽しそうにしている。赤ちゃんとはいえずっと抱っこしてるのは疲れるんじゃないかな?
「ん、大丈夫……機嫌いいし、またぐずったら面倒だし」
時折ぴょんとジャンプしたり、尚ちゃんのほっぺに噛み付く真似をしたりして、周さんたら上手に尚ちゃんをあやしてる。ぶっきらぼうだったり乱暴だったりするけど、ちゃんと可愛がってるのが伝わってくる。
……なんだろう?
周さんに兄弟ができて、可愛がってて、愛情を注いでる姿に僕はふと寂しくなる。やきもちとは違う、この感じはなんだろう。
僕は荷物の乗ったベビーカーを押しながらそんな事を思っていた。
「わっ!」
ぼんやりしていると突然、結構な力で肩を叩かれてびっくりする。
「誰かと思ったら周じゃん! とうとうパパになったのか? まだ若いのに早くね?」
少し先を歩いていた周さんが声に気付いて不機嫌な顔をして振り返った。
「あ! 何でこんなところにいんだよ! それに俺はパパじゃねえ」
僕も二人の姿を見て更にびっくり。
「竜太君久しぶりー!」
「春馬君、どうしたの? こんなところで……恭介さんまで」
お洒落なメガネをかけ、少し目深に帽子をかぶった恭介さんと、隣にいるのは春馬君。二人に会ったのは昨年の遊園地の時以来だから一年ぶりくらいかな? 相変わらず二人ともカッコよくて見惚れてしまう。
「買い物してて、これから帰り。今日は電車だから駅に向かってたら周さんが見えて追いかけてちゃった」
春馬君はそう言いながら周さんに会釈をした。
恭介さんは周さんに何かコソコソ話してる。ちらちらと僕の方を見てるような気がするのは気のせいかな?
「あのなぁ、だから! 俺はパパじゃねえし竜太はママでもねえってば! いい加減怒るぞ!」
恭介さんに何か言われた周さんが怒ってる。その様子を見ていた春馬君が溜息をつきながら、少し呆れるようにして笑った。
「まったく恭ったら……ごめんね、悪気はないんだ。どこまで本気なんだか」
周さんが怒ったのは、どうやらいつ家族になったのかとか、どうやって子どもができたのか、とかそう言う事を聞かれたかららしい。
「ふふ……恭介さんって面白いですね」
そうだ……
将来僕と周さんが一緒になって仮に結婚できたとしても、僕らは赤ちゃんを授かる事はできないんだよね。
尚ちゃんと一緒にいる周さんを見て、なんとなく寂しく思ったのはきっとこういう事なんだと気がついた。
「竜太君? どうかした?」
ふと考え込んでしまった僕の様子を見て春馬君が心配して覗き込む。
「あ、何でもない。ねえ、二人ともすぐ帰っちゃうの? 折角だからお茶でも……僕らこれからケーキ屋に行こうと思ってたんだ」
咄嗟に笑顔を作って誤魔化した。
じっと僕を見る春馬君が何か言いたげな顔をしたけど、僕は気付かないふりをした。
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