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小さな訪問者⑧/周と恭介
「なあなあ、どこまで行くの?」
なぜか恭介も俺の後をついてくる。
こいつといると目立つんだよな。ほら、さっきからチラチラと視線を感じる。帽子とメガネで変装してるようだけど、芸能人オーラが出まくりなのこいつ自分でわかってんのかな?
「なんでついてくんだよ、春馬と一緒にケーキ屋にいればいいのに……お前といると目立つから嫌なんだけど」
「えー? いいだろ? 俺も尚ちゃんと遊びたい」
俺の横にピタッと並び楽しそうにしている恭介。
「それに目立つとか言って、別に俺のせいじゃないし。周みたいなのが赤ちゃん抱っこしてるのが目立つんじゃねえの? 俺のせいにすんなよ」
こいつは芸能人だって自覚がないのか?
どう考えても目立つのは恭介だろうが……
「そんなことより、ねえ俺にも抱っこさせてよ。尚ちゃーん、おいでおいで」
歩きながら俺の方に両手を広げて尚の気を引く。
「は? 子ども好きかよ」
「いや? 特別好きってわけじゃねえけど、なんか新鮮じゃん? 周が父ちゃんやってんの」
まただ。
俺は父ちゃんでもパパでもなく、兄ちゃんなんだよ。
「それやめてくんない? 俺は父親じゃねえし」
「……? 尚ちゃん、パパ怖い顔してまちゅね、嫌でちゅねー」
尚を抱き抱え、俺の方を見ずに揶揄うように言う恭介にイラっとする。
「それより周、どこ向かってんの?」
「公園……」
俺はさっきの店からすぐの所にある小さな公園に向かっていた。そこでなら尚を歩かせてやることもできるし機嫌も良くなると思ったから。でも恭介に抱かれてる尚を見ると、今にも眠ってしまいそう。公園に着く頃にはもうすっかり恭介の胸に顔を埋めて寝息を立ててる。しょうがないので二人で並んでベンチに腰掛けた。
「尚ちゃん爆睡。可愛いなぁ」
確かに可愛い……けどやべえ。
「悪い、汚すからもういいよ、尚のヨダレ……」
恭介の着ている高価そうなシャツに尚のヨダレが滲んでる。
「もう汚しちゃったな、ごめんな」
慌てて尚を抱こうと手を伸ばすも断られてしまった。
「そんなの気にすんなって。せっかく気持ちよさそうに寝てんのに、また起こしちまうだろ? いいよこのままで……」
そう言って恭介は愛おしそうに尚の頭を優しく撫でた。
静かな時間が流れる。
公園には二歳くらいだろうか……若い母親と男の子が遊んでいるだけ。
「あのさ、パパとか言うなよ……」
やっぱり思う所があり恭介に言うと、そんなの冗談だろと笑われた。俺だってそのくらいわかってる。
「竜太がさ……あいつすぐ余計なこと考えるから嫌なんだよ。俺だって兄ちゃんならいいけどパパなんて言われてちょっと考えちまった。どうやったって俺や竜太は親にはなれないんだからさ」
俺がこんなこと考えてんだ……俺なんかよりずっと繊細で真面目な竜太が何も感じないとは思えずに、俺は心配だったんだ。
「ああ、成る程な。竜太君、だから時折元気ないように見えたのか」
「え…?」
竜太がまた変なこと考えないようにって気にしてたつもりだったのに、俺としたことが全く気がつかなかった。
「恭介! 帰るぞ!」
まだ尚と遊んでないと文句を言う恭介を無理やり立たせ、さっきまでいたケーキ屋に急いだ。
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