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小さな訪問者⑨/竜太と春馬

残りのシュークリームを全て口に入れる。もぐもぐと食べる僕を春馬君がじっと見ている。ペーパーで口を拭うと、春馬君はそんな僕を見てクスッと笑った。 「何か心配事でもあるの?……話してスッキリするなら話しちゃいなよ。聞くよ?」 春馬君はそう言うとショートケーキの苺をパクリと口に放った。 春馬君は恭介さんと付き合っている。 僕と同じようなことを感じたりしてるかもしれない。もしそうじゃなくても、春馬君ならきっと僕の気持ちを理解してくれるはず。恥ずかしいけど、春馬君にならこのモヤモヤした気持ちを話してもいいかな……って思って、僕は紅茶を啜り小さく深呼吸した。 「……僕は男なんだ。周さんも」 「ん? そうだね、知ってる」 春馬君は面白そうに僕を見る。 「周さん、大人になったらきっといいお父さんになると思う。雅さんも孫の顔見られたら凄い嬉しいと思うんだ」 雅さんって誰? と聞かれたから、最近再婚をして今は離れたところで生活をしている周さんのお母さんだと説明をした。 「竜太君は周さんとの赤ちゃんが欲しいの? 産みたいって思っちゃう?」 春馬君は小声で僕の方に少し顔を寄せてそう聞いてきたので、小さく首を振る。 僕は子どもを身籠りたいわけじゃない……そんなの不可能だってわかってるし、そうしたいとも思わない。 「そうじゃないんだ。僕だってきっと母さんはこのまま僕が大人になって、誰かと結婚をして幸せな式を挙げたら当たり前に子どもも出来てこの手で孫を抱けるんだって思ってる。雅さんもそう……僕らのこと知ってくれてるけど、でもやっぱり一生一緒にいるとは思ってないかもしれない……」 春馬君は黙って僕の話を聞いてくれてる。 「周さんが尚ちゃんを抱いてあやしてる姿見てるとさ、凄くいいなって思うんだよね。だからいずれは養子でも貰って僕らは家族を作らないといけないのかなって……そうすれば皆んなが幸せなのかな。そう思うんだけど、でも僕はそこまでして子どもが欲しいと思わないんだ」 申し訳ない気持ちで辛くなる…… 「だから……だからそこまでして子どもが欲しいと思えないなら、それなら早いうちに僕は周さんから身を引いた方がいいのかもしれないって、そう思えてしまって……でもそんなの嫌で……」 春馬君はそんな僕を見て小さく溜め息をついた。 「竜太君は凄いね。どんどん考えすぎておかしな方に行っちゃってる。周さんが赤ちゃんあやしてる姿見て、自分が身を引くところまで考えちゃうんだ」 「……呆れる? でも僕は真剣だよ」 「周さんは子どもが欲しいって言ったの?」 「………… 」 ……そんな事ひと言も言ってない。全部僕の独りよがりな妄想だ。 「竜太君さ、確かに僕たちは男で、男女としての未来はない。結婚はできたとしても子どもは作れないし産めないから。大事なのはね、二人の未来がどうあるべきかじゃなくて自分たちがどうしたいか、って事なんじゃないかって僕は思うんだ。きっとこれから二人の未来のことで沢山喧嘩するし、悩むし……傷つく。けど、自分が思う未来と、相手が思う未来を話し合って、繋いだ手を離さずに一歩ずつ進んでいけたら幸せかな……なーんて思うよ。きっと周さんだって竜太君との未来、ちゃんと考えてる」 春馬君が僕を諭すように静かに話す。 そうだよ…… こういう事だって周さんと話したことあるじゃん。僕が不安になる度、ちゃんと周さんが大丈夫だって言ってくれたじゃん。 また僕の悪い癖だ…… 「春馬君、ありがとう。僕ってばいつもこうなんだ……全然成長できてないや。すぐ思い悩んで、情けない。ふふ……気付かせてくれてありがとう」 吐き出したらスッキリした。「よかったね」と笑う春馬君が窓の外を見る。 「あ、恭と周さん戻ってきたよ。二人が戻る前にすっきり出来てよかったね」 「うん、そうだね」 今度は恭介さんが尚ちゃんを抱っこしている。変装しているとはいえ誰もが知る有名人の恭介さんが赤ちゃんを抱いている姿はとても新鮮でなんだか不思議で、きっと春馬君も同じ事を思ったのか思わず二人で笑い合った。

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