122 / 210
小さな訪問者⑩/帰宅
勢いよく店に入ってくる周さん。バタバタと真剣な顔をして、僕の隣に座った。
「?!」
息を切らして周さんに文句を言いながら、少し遅れて尚ちゃんを抱いた恭介さんも入ってくる。
「何慌ててんだよ……歩くの早えよ」
恭介さんに抱っこされてる尚ちゃんはすっかり機嫌も良くなったみたいできゃっきゃと笑ってた。
「竜太!」
周さんはおもむろに僕の手を取り顔を覗き込んできた。その真剣な表情に、僕も春馬君も何事かと顔を見合す。
「俺は竜太がいればそれでいいんだからな? 余計な事考えんなよ? な?」
「……何を突然?」
まるでここで春馬君に話していたことが周さんに聞こえていたかのようで驚きつつ、僕はしらばっくれて返事をした。その様子に、今度は春馬君の隣に座った恭介さんに周さんは文句を言った。
「なんだよ、竜太なんともねえじゃねえか! 恭介が竜太が元気ねえなんて言うから心配しただろ!」
よく見ると春馬君が恭介さんに何か目配せをしている。恭介さんは軽く頷き周さんに謝った。
「悪いな、俺の気のせいだったみたいだ。気にすんな……」
「………… 」
僕が変に思い悩んでたことは黙っていてくれるみたいでホッとした。それにしても……周さんはともかく、僕はそんなにわかりやすいのかな。心配かけないように気をつけなきゃ。
そろそろ行くと言う二人を見送り、僕らも残りの買い物を済ませ周さんのアパートへ帰った。
さっきから周さんがチラチラと見ている。やっぱりさっきのを気にしているのかな。僕は買って来た荷物を整理しながら、夕ご飯の支度も始める。尚ちゃんもいるし、簡単なもので済まそうととりあえずお米を研いで炊飯器にセットした。
「雅さんはいつ尚ちゃんを迎えに来るんですか?」
まさか一晩泊まるなんてことはないだろうと思って聞いてみる。
「ん、夜には迎え来るって言ってたけどはっきりわかんねえ」
周さんといい雅さんといい、そういうところ適当なんだから。
「あ、俺風呂の支度すっからさ……尚のオムツ替えといてよ。お袋来て尚帰ったら一緒に風呂入ろ?」
「はーい」
周さんの家のお風呂は狭いけど、でも二人でくっついて湯船に浸かるのは嫌じゃない。僕は周さんに背中を向けて入る。顔が見えない分話しやすくて、今までもお風呂で色んな話を周さんにしてきた。きっと一緒に入ろうって言ってくれたのは、僕から何かを聞き出したいからなんだろうな……ってそう思った。
まあ、それでもいい。
正直にまた話して、周さんに甘えよう……
よちよちと尻餅をつきながら歩き回る尚ちゃんの後ろをついて回る。ハイハイをしたタイミングで尚ちゃんを捕まえ、オムツを変えようと横に寝かせた。興味を引きつけるために替えのオムツを尚ちゃんに手渡す。仰向けでオムツを手に取り遊んでいる間に、肌着を脱がせオムツを外した。
「……えっ? ちょっと待って!」
オムツを外して初めてわかった……
「周さん! ねえ! 尚ちゃんって……尚ちゃんって、女の子だったんですか??」
僕はてっきり男の子かと思っていたから、女の子だとわかってびっくりした。
ともだちにシェアしよう!