123 / 210

小さな訪問者⑪/わかってるから大丈夫

「そうだよ、どう見たって女じゃんか」 お風呂場から周さんが僕に向かって大きな声でそう言った。 いやいや…… どちらかといえばやんちゃっぽいし、髪の毛だって薄いじゃん。僕が戸惑っていると、いつの間にか尚ちゃんはハイハイしながら周さんの方へ行ってしまった。 「おい、尚どうした? 尻丸出しじゃんか! 竜太オムツは?」 「あ……ごめんなさい。はい、周さんオムツ……」 僕が周さんにオムツを手渡すと、キョトンとして僕を見る。 「竜太……なに? もしかして照れてんの?」 「だって尚ちゃん女の子だなんて知らなかったんだもん」 僕がそう言ったら周さんはゲラゲラと笑った。 「女の子っつったって赤ん坊だろ? こんなのペロッと拭いてやってオムツ履かせりゃいいじゃんか……」 笑いながら手慣れた感じで周さんはオムツを履かせた。 「……いや、まだ嫁入り前だし」 また周さんにゲラゲラと笑われていると、玄関の呼び鈴がなり謙誠さんが迎えにきた。 「尚ちゃーん! パパ来ましたよー!」 ズカズカと部屋に入ってくるなり周さんから尚ちゃんを抱き上げる。 「急に頼んじゃってごめんな。助かったよ。ありがとうお兄ちゃん! また何かあったら頼むわ」 周さんの肩をバシバシと叩き、豪快に笑いながら謙誠さんは荷物をまとめ、尚ちゃんと一緒にさっさと帰ってしまった。 「謙誠さん、嵐のようでしたね。さっきまで尚ちゃんいたのが嘘みたい」 「………… 」 ちょっと周さん、寂しそう。 「周さん、お風呂先入ります?」 「おう」 狭い湯船に二人で浸かる。背後から周さんがふんわりと抱いてくれるその腕に僕は顔を寄せキスをした。 「周さんはいいお父さんになるんだろうなって、今日見てて思いました」 正直に言うと「やっぱりまたそんなこと考えてたんだ」と言って頭をガシガシと撫でられる。 「でもそれだけです。大丈夫ですよ。もう不安になんかなってません」 僕は振り返り周さんにキスをした。 「ずっと僕のそばにいてくれますよね? 僕は周さんと一緒の未来なら何でもいいです」 湯船から出て体を洗う。 周さんはそんな僕に「竜太もいい母ちゃんになりそうだな」と言ってクスクスと笑った。 母ちゃんってなんだよ。 湯船から出て来た周さんの体を洗ってあげる。今度は僕が周さんの背中を見つめる。周さんは不安に思ったりしないのだろうか。あまりそういうところを僕に見せないけど、色々考えたりするのかな。 「周さんは不安になったりしません?」 聞いてみると周さんは首を振った。 「竜太と一緒なら大丈夫。俺のことを大切にしてくれるってわかってるから。何度も言ってるけど、俺は竜太がいないと生きてけねえよ? だからこれからもよろしくな」 ふふ…… 周さん、耳が赤くなってる。 周さんも同じ。 僕は嬉しくて周さんの背中に抱きついた。 「この後はどうします? ご飯の支度する? それとも……」 「ベッド行く!」 「じゃあ先に行っててください」 周さんはさっさと体を洗い、風呂場から出て行く。一人残された僕は、体を綺麗にしてからまた湯船に浸かり、周さんと同じことを思っていたことに嬉しく思い、いそいそと周さんの待つ部屋へ戻った。

ともだちにシェアしよう!