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周&修斗 一泊だけの共同生活 ③

「なんだよ、お前も食えよ。じろじろ見んなよ」 旨くて夢中で食ってたら修斗の視線に気が付いた。修斗は半分くらい手を付けてたけど、もう腹一杯なのかスプーンを置いて俺の方を見ながらぼんやりしている。 「なんかさ、自分の作ったもん旨いって食ってもらえると嬉しいもんだな……自分のためにしか作ったことなかったから……なんか、いいな」 ちょっと照れ臭そうに修斗が笑った。 「周の食いっぷり見てたら康介思い出したわ。もう腹いっぱい……」 は? どういうことだ? 俺と康介が似てるなんてことじゃねえよな? あんな食いしん坊のアホと一緒にすんな。 「そういや俺、これからバイトとスタ練あんだけど。修斗はどうすんだ? 帰る?」 汚れた食器を洗い始めた修斗に聞くと「いや、帰んねえよ?」なんて当たり前にそう言った。 だろうな…… さっきの買い物袋の中身見て、そう言うと思った。昼の分にだけにしちゃ食材が多かったもんな。 「ここにいても構わねえが、どうする? バイトの後はいつものスタジオだけど来るか?」 修斗は就職を機に結局バンドをやめてしまった。 散々悩んだし、靖史さんも含めて話し合いもした。でもこれからの事は修斗本人が決める事であって、俺たちがとやかく言える事じゃないからと決断したんだ。 俺は修斗の音が好きだったからいつまでも納得行かずに駄々をこねてたら、靖史さんに諭された。 「人は人生の中にあるいくつもの分岐点で、自分で決断して前に進むんだよ。自分で決めないといずれ絶対に後悔するんだ。修斗がそう決めたんだから俺たちはそれを応援してやんなきゃだろ?」 靖史さんってさ、俺と歳一つしか違わねえのに凄えオッさんみたいな事言うときあるんだよ。あ、オッさんって言い方悪いか……大人、だな。そんな風に言われちゃもう何も言えねえよな。今は新たに迎えたベースと三人で活動している。そいつも修斗みたいに気さくなやつだから、俺みたいなのでもうまくいってる。 久しぶりのスタジオだろうしここに一人でいたって暇だからと、そう思って誘ってみたんだけど修斗は「いい」と一言だけ。 「わかった。終わったらまっすぐ帰るからよ……帰ったら話し聞くよ? なんかあったんだろ?」 着替えながら修斗を見ると、こちらを見もしないで「ああ……」とぶっきらぼうにこたえた。 修斗は一見、なに考えてるかわからないところがある。深く付き合ったことのない人間には、適当、軽い、チャラい……そんな人間に見られてもおかしくない。実際修斗のことをそういう風に見てる奴はいっぱいいる。相手を油断させといて懐に入っていくような、本当はとても賢くて頭がいい人間なんだってことは深く付き合った奴にしかわかんねえんだろうな。 俺はこいつとは長い付き合いだからか、ふと見せる表情の変化に気がつけるのかもしれない。それか、修斗は俺のことを信頼してくれてるから気が緩むのかもしれないな。まあ、どっちにしろ、修斗がここに来た時からちょっと元気がないことはわかってた。 「どうせ大したことじゃないんだろ? もし出かけんなら下駄箱にスペアキーあっからそれ使え。九時には終わって帰るからさ、軽いメシでも作って待っててよ。じゃ、行ってくら」 俺はそう言って修斗を部屋に残し、バイトに出かけた。

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