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周&修斗 一泊だけの共同生活 ④

スタジオ練習も終わって靖史さんに案の定メシに誘われる。でも事情を話して俺はさっさと家に帰った。 玄関に入ると、修斗が台所に立って何かを作ってる。 「ただいま」 声をかけるまで俺に気がつかなかったらしく、修斗はビクッと驚いたように振り返った。 「お……帰り。意外に早かったな」 「メシ作って待ってる修斗のために急いで帰ってきたんだけど? 早くて何か都合悪かったか?」 シャワーを浴びたくて俺は服を脱ぎながら声をかけ、風呂場に向かう。 「あー、いや……そう言うわけじゃねえけど。何? 先に風呂入んの? 言っといてくれれば風呂沸かしておいたのに……」 俺はだいたい竜太と一緒の時は風呂に入るけど、一人の時はシャワーで済ませることが殆どだ。 「いや、大丈夫、いつもシャワーだから。出たらすぐメシ食える? めっちゃ腹減った」 「おう、すぐ出来るよ。ゆっくりシャワー浴びといで」 腹が鳴るくらいに腹ペコだ。俺は簡単にシャワーを済ませて部屋に戻る。すると俺を見た修斗がまた驚いたように声をあげた。 「お前何なの? 早すぎ!……ったく、頭も! それちゃんと拭いたのか? 水滴たくってんぞ……」 ああ、いつもの癖だ。 ビショビショで出ると慌てて竜太が頭を拭いてくれんだよな。それが嬉しくて心地よくって、いつの間にか適当に出てくるようになっちまった。一人の時はちゃんとやるんだけど今日は修斗がいたから一人じゃないって、ぼんやりしちまった。 「てめえで拭けよ? 竜太君じゃないんだから俺はドライヤーやってやんねえから。どうせいっつも竜太君にやってもらってんだろ?」 「ん……ああ」 機嫌がいいんだか悪いんだか。修斗に怒られた風になってんのがちょっと気に食わなかったけど、まあいいか。俺はもう一度洗面所に戻り髪を乾かした。 改めて部屋に戻るとテーブルに料理が準備されていて、美味そうなパスタとサラダが並んでる。これ、本当に修斗が作ったのか? 盛り付けも綺麗で、店で出てくる料理みたいだ。まあ、竜太の方が上手だけどな。 「凄えな。旨そ! ミートソース? 俺好きだよこれ、きしめんみたいなのも」 「あ、ミートソース……じゃなくてボロネーゼな。麺はタリアテッレ……まあどっちでも似たようなもんだから何でもいいや。あと、旨そうじゃなくて間違いなく旨いから」 席に着き、俺は修斗に向かって「いただきます」をする。 なんか変な感じだな。 こいつとは長い付き合いだけど、こうやって俺の家で二人で飯食うなんて初めての事じゃね? 何度も来た事はあるけどな。 「凄え美味い! おかわり食いたい。まだある?」 「は? おかわりすんの? まだ食べ始めたばっかじゃん。まあソース残ってるからパスタ茹でりゃいいだけだけど。茹でとく?」 俺は元気にウンと頷き、残りを頬張る。 ちゃんとした飯食ったのも何日振りか? そんなこと言ったら竜太に怒られそうだ。 「ほんと、周も康介みたいだ……」 夢中で食ってる俺を見て修斗がそんな事言うから腹が立つ。俺はあんなアホ助とは違うから! 俺が食いながらムッとしたのがわかったのか、修斗は笑って言葉を続ける。 「いや、よく食べるし、わかりやすいところが似てるって言ってんの。そんなあからさまに嫌そうな顔すんなって。俺は褒めてんだぞ?」 康介なんかと同類にされて褒められてるなんて到底思えないけど。こんな事で口論したってしょうがないから俺は黙って食べ続けた。 昼と違って、今度は修斗もちゃんと残さずに食べてるから安心した。ちょっと元気のない原因は何なんだろう。どうせ大したことじゃないのは雰囲気でわかるけど、とりあえず修斗が話し出すまで俺は待つことにした。

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