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意地悪なのは…③/お互い様
「康介?」
「………… 」
ほんと、腹立つ──
毎度毎度、俺たちは竜にも呆れられるくらいよく喧嘩するけど、それでもその度言いたいことぶつけて分かり合えてきたつもりだ。でも今度のは何だよ。
金ヅル? セフレ?
は? そういうこと言ったんだよな? 今。
でも修斗さんが本気で言ってないって事くらいわかってる。わかるからそれが腹が立つんだ。
……俺のこと試してやがる。
確かに今日会ってすぐは俺、怒ってたよ。修斗さんに腹立ててた。でも久しぶりに一緒にいるんだ。楽しそうにしている修斗さん見て何ひとりでイラついてんだって反省したんだよ。高校の時と違ってふたりの時間も少なくなってるし、しょうもない喧嘩も増えた。だからこの前のことはもう許して楽しもうって気持ち切り替えたんじゃん。
そうだよ。元はと言えば修斗さんが悪いんじゃんか!
さっきのはちょっと言いすぎたかな……とも思ったけど、もう知らね。何も間違ってねえし! 俺がいつもこの人に振り回されてんだ。クソが!
俺は修斗さんを無視してベッドの角で弁当を食べ始めた。
「康介……無視すんなよ」
……うるさい。
「俺がいつも振り回してんの?……迷惑だった?」
……迷惑なわけねえじゃん。バカなの?
「ねえ、康介ってば……」
「………… 」
修斗さんを無視して、黙々と買ってきた弁当を平らげる。シュークリームひと口貰いそびれたな、なんてぼんやりと思い、食べた終えたゴミを袋に突っ込み向こう側へ投げたら、イラついてたせいもあって思いの外強く壁にぶち当ててしまった。俺の視界に入っていた修斗さんが、その音に驚いてビクってなったのがわかった。ヤベって思ったものの、でももうどうしたらいいかわかんなくなってた俺は、修斗さんに背を向け、そのまま無視を続けた。
カサカサと修斗さんがオニギリの包みを開ける音がする。修斗さんももう俺を構うのをやめ黙って食べ始めたから、俺はシャワーを浴びにバスルームに入った。
こうなったら引っ込みつかない。話しかけるタイミングがわからない。喧嘩して黙り込んだら大抵は俺が修斗さんに謝って仲直りするんだけど、今回ばっかりは修斗さんが酷い。俺のこと、嘘でもセフレとか疑ったのはやっぱり許せない。
ドライヤーで髪を乾かす。
いつもならお互い乾かしあったりしてスキンシップするんだけど、今日は自分でやった。バスルームから出ると、修斗さんはさっきの場所で座ったまま俺の方を見ていた。修斗さんのシュンとした顔を見て、胸が痛む。
それでも俺はベッドに入った。
もういいや、このまま寝ちゃえ……
窮地に立った時、俺は真っ先に「逃げる」という選択肢を選んでしまう。問題に立ち向かうより、あやふやにしたり逃げた方が楽だと思ってしまう……悪い癖。俺が意地になってればきっと修斗さんの方から謝ってくれるだろう。少しそう期待しての行動だったけど、現実はちょっと違っていた。
沈黙が続き、不意に修斗さんが俺の背後に入ってきた。ピタッと俺の背に頭をつけてボソボソと喋る。
「康介、今日はなんでそんなに意地悪なの? 俺のこと無視して楽しい? 今日は「ごめんね」って言わないの?」
「………… 」
俺が悪いんじゃないし。此の期に及んでまだそんなこと言ってら。
「竜太君はいっつも素直なんだって。周と竜太君って滅多に喧嘩しないんだって。竜太君いい子だし、周もわかりやすいし不満や心配事はお互いちゃんと相手に伝えてるって……いいなそういうの」
何でここで竜たちの事が出てくんだ?
竜が素直で可愛いのなんか昔っから知ってるし。俺が素直じゃないってこと? ムカつく。
黙ってるのもなんか限界。腹が立ったから振り返らずに言ってやった。
「竜は誰かさんと違ってわざと恋人を困らせるようなこと言って試したり駆け引きしようとしないんですよ! 自分の感情をちゃんと素直に伝えるんです。だから可愛いって愛されるんです!……素直じゃないのは俺だけじゃねえだろ!」
俺は自分に自信なんてないし、んなこと俺なんかが言ったって……って思って素直になれない。わかってる。修斗さんだっておんなじなんだろ?
素直じゃないのはお互い様。俺だけのせいじゃない。
「俺は周さんじゃない! 周さんと俺を比べんな!……だからなんなんだよ? 俺もそうしろって? は? なら周さんと付き合えば?」
修斗さんの顔も見ずに、それだけ言って俺はベッドに潜った。
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