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意地悪なのは…⑨/幸せ
「修斗さん……聞いて」
康介の手が俺の手をギュッと握る。心なしか声が震えてる。
「何? どうした……?」
急に様子のおかしくなった康介が気になって振り返ろうとしたら、見ないで……って頭を押さえられた。
指と指を絡めてにぎにぎとやりながら「聞いて」と言う割に康介は中々話を切り出さない。
いや、そろそろ出ないとのぼせそうだし。風呂出てからじゃダメなのかな。
「修斗さん。俺ね、わかってると思うけど、凄く修斗さんのことが好きなんです。でも今回みたいにヤキモチ妬いたり自信なくなったり……けんかばっかして……もういい加減嫌なんです」
「………… 」
いい加減嫌だってなんだよ。さっきのは仲直りじゃねえのかよ。
ギュッと指を強く絡める。
「修斗さんが俺のことを思ってくれてるの、わかってても、俺バカだからまた不安になって喧嘩しちゃうかもしれない……そういうの、もうやめたい」
やめたいって? どういう事?
「こんな俺じゃ……この先ずっと一緒にいても修斗さんに嫌な思いさせちゃうかもしれないし、幸せにしてあげられないかもしれない」
長い溜息と共に絡めていた指がスッと離れていく。康介の言葉、離れてく指先にどっと不安が押し寄せた。
「あのね、俺……」
「は? 幸せって……康介が俺の幸せ勝手に決めんなよ! なんだよそれ! ……嫌だかんな! 幸せにしてあげられねえって、そんなこと言うなよ、さっきのは仲直りじゃなかったのかよ!」
俺は慌てて康介の方を振り返り、康介に抱きついた。
頭の中がテンパる。さっきあんなに優しくエッチしてくれたじゃん。なのになんなの?
その言い方……まるで「別れてくれ」って言われそうで、怖くてこれ以上聞いていられなかった。
俺、康介のいう事聞いたじゃん。あんな恥ずかしい事だって康介のいう事だからやったんじゃん。
嫌だ!
俺は怖くて康介の顔を見られない。また泣きそうになるのをぐっと我慢して康介の言葉を待った。
「うん。仲直り……です。修斗さん……俺……俺、就職決まったらね、家を出ようと思ってるんだ。で、少し広い部屋借りるから。その……俺と一緒に住んでくれないかな……って」
「……へ?」
康介が俺の頬に手を添え顔を上げさせる。俺はされるがまま康介の顔を見た。
「いつも修斗さんが俺のところに帰ってきてくれたら、俺安心だし。ずっとずっと一緒にいたいって思ってる。でも、男同士だし、これ言ったら修斗さん縛り付けることになっちゃうし、俺なんかと一緒にいたって修斗さんは幸せになれないかもしれないけど……それでも俺、修斗さん独り占めしていたいから。俺の我儘なのはわかってる。でも、どうしても修斗さんと一緒にいたいから。お願い……修斗さんを俺にください」
康介も俺に抱きつく。小さな声で「ごめん」って何度も謝る康介に、俺はちょっと考えてしまった。
「なんで謝る? それってさ……もしかして、もしかしなくてもプロポーズって捉えていいんだよな?」
「え? あ! あ……あ……わかりました?……へへ、そういう事です。修斗さん、俺とこれから先の人生、ずっとずっと一緒にいてください……俺のもんになってください」
ずっとずっと一緒にいたいって、何度かそういうことはお互い言ってきた。でもそれは漠然としたことであって、単なる「好き」っていう気持ちの表現にすぎなかった。
一緒に暮らそうって康介が考えてこんなに緊張しながら言ってくれたことで、今までとは違って現実味がぐっと増した。
ドキドキした。
俺、こんなラブホの風呂ん中で、しかものぼせる寸前の状態でプロポーズされちゃった!
「……康介って、ほんとバカだなあ」
「あ? 何でだよ! 笑うなってば。こんなバカのこと大好きな修斗さんだってバカなんです」
うん……
大好きだよ。
俺、康介と一緒にいて嬉しいこと沢山あったけど、今が一番嬉しいかもしれない。
「ありがとう」って俺は涙を誤魔化しながら康介にキスをした。
── 意地悪なのは… 終わり ──
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