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僕らの卒業旅行 ④

部屋に戻るとテーブルにお手製「旅のしおり」を広げ直樹君が携帯を片手に真剣な顔で考え事をしていた。 夕飯の時間まで、部屋の中で各々ゆっくりとした時間を過ごす。ベッドに腰掛け携帯をいじってる修斗さん、運転で疲れたのか修斗さんの横で周さんは横になり居眠りをしている。祐飛君は一人で何やら荷物を整理し始め、僕と康介は直樹君と明日の予定についてしおりを眺めながらお喋りをした。 「直樹君って意外とマメなんだね」 「普通こんなしおりなんて作んねえだろ。張り切りすぎだっつーの」 康介が笑う。直樹君はしおりから顔を上げ、申し訳なさそうな顔をして小声で呟く。 「……俺、二人の卒業旅行なのに都合よく利用させてもらっちゃって。祐飛と旅行なんてこんなチャンスねえから嬉しくなっちゃって……ほんと図々しくてすみません」 真っ赤になって頭を下げるもんだから、僕と康介は可笑しくって吹き出してしまった。 「お前今更かよ! そんな下心わかってるつーの。まあよかったな。折角なんだし楽しもうな」 「……! 下心とかっ! 康介君声でけえってこのバカっ」 康介と直樹君のやり取りを少し離れたところで静かに見ていた祐飛君がクスッと笑った。なんだかんだ祐飛君も満更ではないようで、この二人の関係も見ていて微笑ましくて好きだなって思う。 その日の夕ご飯は僕らだけの個室で用意されていて、気兼ねなく頂けた。 朝食は大広間のバイキングらしいけど、それはそれで楽しそう。このホテルといい食事といい、思ったよりも豪華でびっくりした。直樹君さまさまだよね。 夕飯も終え部屋に戻り、今度は僕ら皆んなで顔突き合わせどこで寝るかの争奪戦。食事から戻ると思った通り奥の和室に布団が四組敷いてあり、誰がどこで寝るかを決めるのに揉めていた。 「俺らベッドでいいし、竜太と一緒に寝るから隣のベッド使っていいぞ」 「いや、それおかしいでしょ。そんなとこで一人寝るの居た堪れないわ……」 直樹君は僕らと康介、修斗さんが和室の布団を使うべきだと主張してる。周さんは布団ははみ出すから嫌だと言って断固ベッド。修斗さんも康介も最初はベッドがいいって言っていたけど、もうどっちでもいいらしく早く決めろと面倒くさそうにしていた。 「じゃあジャンケンでいいじゃないですか、ね? 周さん。僕は周さんと一緒ならどっちでもいいですから」 僕らは皆んなでジャンケンをする。勝った人から好きなところに寝ようって決め、一番に勝ったのが祐飛君だった。祐飛君は即決でベッドを主張したもんだから、必然的に僕と周さん、康介と修斗さんが布団になってしまった。 「公平にね、周さんもほら……もう決まったことだから」 また不機嫌になってしまった周さんをなんとか宥める。修斗さんは奥の布団をズイズイと横にずらして康介の陣取っている布団にぴったりとくっつけていた。 「周もどうせ竜太君とくっついて寝るんだろ? 布団、そっちくっつけとけよ。康介の方来んなよな」 「誰が行くかよ。そっちこそ寝相悪そうな康介気をつけろよ。こっち転がってきたら踏むかんな」 修斗さんが手をピッピと払う仕草をして周さんをますます苛つかせる。全くもう、いちいち揉めないでほしい。小競り合いなんだかふざけているんだか、いつの間にか枕投げに発展していて最終的には康介が布団の下敷きになっていて、修斗さんが楽しそうにその上で転がっていた。 「明日は朝食終わったらすぐに出ますよ」 直樹君がひょっこり顔を出す。修斗さんは康介の包まってる布団の上で胡座をかいて、旅のしおりをパラパラとめくりながら怪訝な顔をした。 「……これさ、マジで行くの? 俺たちで?」 「行きますよ。有名な場所は行っておかないと!……お、俺はあんま関係ないけどさ、先輩達は行きたいんじゃないっすか?」 それだけ言って直樹君は「おやすみなさい」と行ってしまった。 「これ絶対恥ずかしいやつだよ。わかってんのかな。ま、いっか。康介寝よ」 修斗さんも康介の布団に潜り込む。もぞもぞと布団の中でしばらくじゃれあってる感じだったけどすぐに静かになった。 皆んな疲れたんだろうな。周さんも静かだと思ったら早々に寝ちゃってるし。でもちゃんと僕のスペースをあけてくれてるのか、周さんは布団の端っこで姿勢良く眠ってた。 僕が布団に入ると、気がついた周さんは僕のことを抱き寄せる。ギュッと腕を回して「おやすみ」と小さな声で囁くと優しくキスをしてくれた。 「おやすみなさい」

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