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僕らの卒業旅行 ⑥
流石に絵馬に名前を書くのは恥ずかしかったので、僕は周さんと二人でお金を出し合って小さめの南京錠を購入した。売店のおばちゃんは終始僕らを見て「仲良しでいいねえ」と話しかけてくれ、なんだかんだ嫌がる康介にも買っていけとしつこくお薦めするもんだから、根負けした康介達も南京錠を買うことになった。
「あれ? 祐飛君と直樹君も、絵馬買ったの?」
僕らの後に、各々一つずつ絵馬を持った二人を見てびっくりした。
「にいちゃん、別にお願い事書いたっていいんだよ。ご利益あるかはわからないけど記念に書いてきな!」
店から出ようとした僕らの背後から元気なおばちゃんの声がする。結局売店のおばちゃんにみんなまんまと買わされちゃったんだね。それにしてもご利益あるかわからないって……
「はは、おばちゃんそこはご利益あるって言っとかなきゃ」
南京錠を手にした修斗さんが笑った。
来た道を少し戻る。さっき見た多くの絵馬や南京錠の隙間に僕らも鍵を掛けた。祐飛君もすぐ隣のスペースに絵馬を結びつける。僕らからずっと離れた場所で直樹君は一人、絵馬を掛けていた。
「……あれは突っ込んだほうがいい? ほっといたほうがいい?」
直樹君の方を向き修斗さんは笑う。直樹君はまあ何を書いたのか想像つくけど、祐飛君は何か書いたのかな。
「祐飛君は絵馬に何書いたの?」
「……合格祈願」
「………… 」
真面目な顔をして言うもんだから、横で聞いていた康介が吹き出した。
「恋人岬で合格祈願って……お前面白えな」
僕らが立ち止まりお喋りをしていると直樹君が戻って来る。何事も無かったかのように「さ、行きましょう」なんて言うもんだからすかさず康介に突っ込まれていた。
「直樹は何書いたんだよ。あんな遠くに一人で絵馬掛けやがって」
「え……と、みんなが幸せでありますようにって」
直樹君、目が泳いじゃってるしわかりやすい。顔赤くなっちゃって、きっと祐飛君のこと書いたんだろうな。
「は? なんだそれ。わざわざあんな遠くに掛けることなくね?」
康介は気付いててわざと言ってるのか本気なのか、ほっといてあげればいいのに意地悪なんだから。
「いいんです! 康介君もう絵馬のことはおしまい! 早く行きましょ。ハイキングコース」
直樹君は本当のことは言わず、康介の腕を押し先に進んだ。
遊歩道を景色を楽しみながら進む。ハイキングコースは思いの外距離があって、僕は後半周さんに引っ張ってもらうように何とか進んだ。今日も天気も良くて、何処からともなく鳥のさえずりも沢山聞こえる。修斗さんは歩きながら周りの景色を撮ったり僕らの様子を撮ったり、みんな楽しそうなのに僕ときたら後半バテバテで全然余裕がなかった。
「結構距離あったね。竜太君大丈夫? 緩い上り坂ってジワジワしんどいや」
修斗さんが心配してくれ、ベンチで休憩する僕の隣に腰を下ろす。周さんから飲み物を分けてもらい一息ついていると、直樹君がこの奥に誓いの鐘があると教えてくれた。
「え? 何々? 誓いの鐘?」
修斗さんが興味を示し、直樹君から話を聞く。なんだかんだ言って、一番こういうのが好きなの修斗さんかもね。嫌がる康介の手を掴みあっという間に行ってしまった。
「周さん、せっかくだから僕らも行きます?」
周さんはこういうのあんまり興味ないかな? って思ったけど、僕が声を掛けたら嫌な顔もしないで「行こうか?」って言ってくれたから嬉しくなった。
誓いの鐘を二人で三回鳴らすと幸せになれるとかそういうの……もう十分幸せなんだけどね。別にこういうのが好きなわけじゃないよ、記念に二人で鐘を鳴らしてみたいなって思っただけだから。
心の中で言い訳している自分に気が付き、なんだか康介みたいだって思って可笑しくなった。
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