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僕らの卒業旅行 ⑦
「あれ? 誓いの鐘ってこんなに近いの?」
修斗さんと康介が歩いて行ってから、さほど時間も経ってないのにもう鐘の音が聞こえてきた。大きな澄んだ音が綺麗に響く。カーン、カーン、カーン……と三回。
「いや、さっき行ったばっかでちょっと早いよね。もしかして先客がいたのかもしれない……」
直樹君がそう言ってすぐ進行方向のずっと先に人影が見えた。鐘のある場所は行き止まりになってるから、鐘を鳴らした後はまた来た道を戻ることになる。進んで行くとやっぱり康介たちじゃなく、知らないカップルだった。ちょっと気まずく感じながら僕らはすれ違い、そして暫く歩くと康介と修斗さんが見えてきた。
「何でそういうことするの? バカじゃないの? 恥ずかしいじゃん! 絶対彼氏の方に睨まれたって……」
「平気だって、康介気にしすぎ。俺本当のこと言っただけだし」
康介と修斗さんは鐘も鳴らさず揉めている。まあよくあるいつもの事だ……
「康介、鳴らさないなら僕ら先に鐘鳴らすね」
揉めている二人を素通りして、僕は周さんと二人で手を添え鐘を鳴らした。ちゃんと三回。近くで聞くと結構迫力ある大きな音。その綺麗な鐘の音の余韻に浸っていると、周さんが僕の肩をグッと抱いてくれた。
「何だよ竜、無視して先行くなって……」
周さんと二人の世界を康介に邪魔され我に返る。
「康介行くよっ! いつまでも怒ってないで、ほら、早く俺らも鳴らそうぜ」
何か言いたげな康介を修斗さんが強引に引っ張っていき、カンカンカーンと元気よく鐘を鳴らす。そんなんだからまた康介が「ムードない!」って怒っちゃってる。
「……ほんとごちゃごちゃ騒がしいな」
呆れる周さんと笑っていると、何で揉めてたのか聞けと言わんばかりに康介にジトッと見られたので、しょうがないから聞いてあげた。
「さっき来た時、先客がいてさ、やべ……気まずい! って思った途端修斗さんが何を思ったのか話しかけやがって」
「だって目が合ったし、すれ違うときには挨拶するでしょ? 山のマナー」
「いや別にここ山道じゃねーし! それに俺の腰に手を回して抱きよせる必要もねえし、何が「お幸せに」だよ! 余計なお世話だっつーの。絶対彼氏の方、冷やかされたと思ったよ? めっちゃ俺睨まれたし」
その時の様子が目に浮かんで思わず笑ってしまう。
「だって女の方、康介のことずっと見てんだもん。男いんのに俺の康介に色目使ってムカつくじゃん! 俺の男だっつうの」
意外な修斗さんの言葉に康介は赤くなってワタワタし始める。こんなのもいつもの事で、もうお約束だよね。
「はい、康介良かったね。修斗さんヤキモチ妬いて見せつけたかったんだよ。ほら写真撮ってあげるからいつまでも怒ってないで……ね?」
「竜太君、俺ヤキモチじゃないから!」
「はいはいわかってます、はい、撮りますよ。笑って〜」
ちょっと面倒くさくなってきたので、さっさと記念写真を撮って直樹君たちの待つ さっきのベンチのところに戻った。
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