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僕らの卒業旅行 ⑧
「なんだかんだ言って、ちゃんと南京錠二人で掛けたり誓いの鐘鳴らしたり、楽しんでたじゃん……」
恋人岬を思いっきり楽しみ次の目的地に向かってる車中で、直樹君がぶつぶつ言っている。
「うん、意外に楽しかったよ。他の観光客も少なかったし、いい思い出になったよね? 直樹ありがと!」
修斗さんもご機嫌で直樹君にお礼を言った。さっきまで機嫌の悪かった康介は、疲れてしまったのか修斗さんにもたれて寝てしまっている。そういう僕もちょっと眠くなってきちゃった。窓の外を眺めながらどうしても重くなってくる瞼と格闘していると、運転している周さんが笑った。
「いいよ……無理しねえで寝とけ」
「………… 」
周さんだって昨日から一人で運転してるし、慣れない土地を走ってるんだ。いつも以上に疲れてる筈なのに。だから周さんの隣では絶対起きてなきゃって思ってたのに、眠たいのバレちゃった。
「大丈……夫……です」
突然周さんに頭をヨシヨシされびっくりする。そしてそのままその手が僕の手を掴んだ。スリスリと指を絡ませ、軽く握る。周さんは運転しているから前を見たままだけど、指の股を絶妙な力加減で撫で回し、指先だけで僕の掌を愛撫してくる周さんに僕の眠気は一気に覚めてしまった。
何? このいやらしい触り方……
「あ、周さん?」
ドキドキする。ただ手を握っているだけなのに、とてもいやらしく感じてしまうなんて僕はどうかしている。すぐ後ろに皆んないるのに……恥ずかしくてしょうがない。
「竜太の手、すべすべして気持ちいいな」
「………… 」
掌に汗かいてきちゃう。相変わらず手を握ってくる周さんに、寝てていいぞ……なんてまた言われたけど、寝られるわけないでしょ。
「もう眠気、覚めました。周さん、危ないからもう手……離してください」
ちょっと名残惜しかったけどしょうがないよね。だってヘンな気分になっちゃいそうなんだもん。
「……周さんのエッチ」
小さな声でそう伝えたら、ニヤッとイタズラっぽく笑った。ほら周さん、やっぱりわざとだったんだ。僕は火照る顔を誤魔化すために、窓を開けて風にあたった。
皆んなでお昼を食べて、そして今度の目的地は動物園。ここは結構楽しみにしていた所。小動物と触れ合えるコーナーもある。動物園なんて子どもの頃に家族で行ったっきりだったから、こうやって友達と……周さんと一緒に来られたのがすごく嬉しい。
「ねえ〜、何で動物園? 子どもじゃないんだからさあ、俺たち行って楽しいの?」
また文句言ってる。
どうせさっきみたいに行ったら行ったで楽しめるんでしょ。そう言おうとしたら、もう慣れてしまったのか直樹君が修斗さんに僕が思ったまんまを反論した。
「そんなこと言って、どうせまた誰よりも楽しんじゃうんでしょ? 修斗さんはそういう人だよ」
「直樹君 言うねえ。でも動物園って子どもが喜ぶイメージ……てかさ、俺ってば多分動物園って行ったことないや」
修斗さんはちょっと考えるように首を傾げる。幾ら何でも子どもの頃に行ったことあるでしょ。僕でさえ小さい時家族で行ってるんだ。
「俺ガキの頃病弱だったからさ、あんまし家族で出かけるってしてねえんだよな。うん、覚えてねえからきっと行ったことねえんだよ……」
「修斗さん、マジか……」
隣で康介もびっくりしてる。でも「俺の初めて、康介と一緒に行けて嬉しいな〜」なんて言われて嬉しそうに笑っていた。
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