144 / 210
僕らの卒業旅行 ⑨
入園口でチケットを購入し皆んなで一緒に動物園のゲートを通過する。
「ねえ、キリンとかゾウとかデッカいのいるの?」
やっぱり修斗さんはウキウキした様子を隠すことなく、ゾウは何処だ?とパンフレットを食い入るように見ていた。
「とりあえずゾウは一番奥だし園内広いし、道順どうりに進みましょ? えっと、最初はこっちです。わ! カピバラだって」
初めから動物園を楽しみにしていた僕は、率先して場内の地図を片手に前を進む。売店も気になったけど、そこも通り越し最初に見えてきたのはカピバラやヤギ、奥にはカモシカ。草食動物が多くいるゾーン。
「可愛いー! 見てみ? 康介みたい!」
修斗さんがご飯をモグモグしてるヤギを指差して笑っている。
「ほら! 無心で食べてるあの顔! 一点見つめて黙々と食べてんの康介そっくりじゃん めっちゃウケる!」
「俺、あんなんじゃありません!」
柵に身を乗り出すようにしてぴょんぴょん跳ねている修斗さん。何だか子どものようにはしゃぐ修斗さんが可愛くて微笑ましい。修斗さんに寄り添うように隣に並んで佇む康介の姿がいつもより大人っぽく見えた。あれ? 修斗さんが子どもっぽく見えて新鮮なのかな。
意外な一面。康介もあんな表情するんだ……って見惚れていたら、突然周さんに肩を抱かれた。
「俺たちはあっち見に行こうぜ」
別行動をしたそうな周さんに引っ張られ、皆んなと逆方向へ進む。直樹君が「一時間くらいしたら適当に連絡しますね」と言うのが聞こえたので、とりあえず大丈夫かな。
「もう、急なんだから……」
「だって全然二人になれねえんだもん。竜太の行きたいところ行こうぜ」
開放感からなのか堂々と僕と手を繋ぐ周さん。嬉しくて僕も周さんの手を握り返し、それからは二人で園内を散策した。
「あ、見て周さん! ボート乗りたいです」
園内を半分くらい進み、猿山も堪能して更に進むと大きな池があった。パンフレットを見ると真ん中の浮島にはリスもいるらしい。周さんとボートでのんびりしたくて乗り場を目指して歩くと、急に周さんが立ち止まった。
「あ……ボート後にしねえ?」
何で? って思ったけど、周さんがそう言った意味がわかった。遠く向こう側、楽しそうにボートを漕いでいる直樹君の姿があった。勿論祐飛君も一緒に。
「ふふ……周さん、気が利きますね。うん、せっかくの二人っきり、邪魔しちゃ悪いですよね」
僕らや康介達と違って、あの二人は付き合っているわけじゃない。直樹君の片思いだ。でも祐飛君だって直樹君のこと特別に思ってる。僕は二人はお似合いなんだし付き合っちゃえばいいのに……って思うけど、あの二人には二人の考えがあるんだろうな。まあ、直樹君は早く恋人同士になりたいみたいだけどね。
「上手くいくといいね。直樹君……」
思わずそう溢すと、周さんは「あれで付き合ってないって言ってんのも可笑しいよな」と笑った。
ともだちにシェアしよう!