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僕らの卒業旅行 ⑩
折角僕らが遠慮したっていうのに、気がつけばさっきの池で康介たちもボートに乗っている。おまけに大騒ぎしながら直樹君たちと競争らしいことをしていて凄く目立っていた。
「修斗が変なテンションなのがいけねえんだな……」
周さんも呆れ顔。確かに修斗さん、ここに来てからいつもより更に元気だ。普段構われて騒いでるのは康介だけど、その康介が今日は若干引き気味なのが面白い。
「修斗さんの笑い声、ここまで聞こえますね。てかあんなはしゃいでる修斗さん珍しい」
「ガキだなありゃ。かかわるの疲れそうだしボートは諦めて他行こうぜ。ほら、うさぎとか触れるとこあったよな?」
周さんの言葉に僕はふれあい広場にも行きたかったのを思い出し、すんなりボートは諦めた。
「はい、行きましょ! ボートはもういいです」
柵に囲まれた広いスペース。柵の中にはウサギやモルモットを抱いている沢山の子どもたちの姿。
「……あそこ、子ども限定なのか?」
「そんなことないでしょ、早く入りましょ……え? 当たり前でしょ、周さんも一緒に来るんです。ほら早くっ」
ふれあい広場に子どもしかいないのに抵抗があるらしく「俺も行くのか?」と周さんが入り口で渋ってる。そんなの無視して僕は周さんを引っ張り中に入った。中は広いスペースにいくつかまた柵で仕切られていて、ウサギとモルモット、奥には子ヤギまでいた。
「周さんっ! 見て! うさぎ、いろんな種類のがいますね! 可愛い!」
僕は端っこにいた大人しそうなウサギを捕まえて抱きかかえる。座るところもあったので、僕は抱えたままそこに腰掛けウサギを膝に乗せた。
「あら、お兄さんは流石! 抱っこが上手ね」
大人しく僕に抱かれているウサギの柔らかな背中を撫ぜていると突然飼育員さんに声をかけられ、褒められたことが嬉しくてハイと頷く。ここにいる飼育員のお姉さんは遊びに来た子どもたちに動物の抱っこの仕方などを教えているらしい。
「そちらの大きなお兄さんは抱っこしないのかな〜?」
まるで小さな子どもに声をかけるような口調で周さんにも声をかける。和かなお姉さんと対照的にムスッとしている周さんが可笑しかった。
「ああ、俺は保護者みたいなもんだから」
ニヤっと笑って僕を見る周さん。保護者って何?
「僕は子どもじゃありませんよ!」
もう少ししたら餌やりの時間だと教えてもらい、せっかくだから餌やりも体験したいのでこのままここで時間を潰す。モルモットも毛が長かったり大きかったり、いろんなタイプがいて可愛かった。
「マジか! 周、何この状況……面白え」
ボート遊びが終わったのか、修斗さんと康介もふれあい広場にやってきた。座ってモルモットを抱いてる僕の横に立つ周さん。周さんは何もしてないのに、なぜかその足元には何匹ものモルモットがひしめき合っていた。
「知らねえし。呼んでねえのにくっついてくんだよ……何だよ康介も笑うんじゃねえよ」
確かにちょっとおかしな光景。何もしてない直立不動な周さんなのに、何でみんな集まってくるんだろう? 半分以上のモルモットがこっちに来てしまっているから、他のこども達も周さんの側に集まっていた。
「昔っから年寄りと動物には好かれるんだよな、周は。それに比べて康介めっちゃ逃げられてんじゃん! ウケる!」
康介もモルモットを抱っこしようとして手を差し出すも、次から次へと逃げられていた。お陰で周さんのところにいたモルモットもみんな走ってどっかへ行ってしまった。
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