202 / 210

頼りになるのは……⑦

「ちょうど良かった……喉乾いて……」 入ってきた竜太を見て言葉が止まる。どこから持ってきたのか、小顔の竜太の顔を殆ど覆うようなマスクをガッツリしていて、お盆の上には除菌スプレーを乗っけている。 「周さん、りんご! りんご摩り下ろしてきました。ハチミツも入ってて美味しいですよ」 お盆の上のデッカい除菌スプレーにばかり目が行ってしまって気がつかなかったけど、隣にちゃんと摩り下ろしりんごの器が乗っていた。竜太は除菌スプレーを自分の手のひらにシュッシュとやると、今度は俺の手を掴む。手のひらを上に向けろと言われたから従うと、同じようにまたシュッシュとやった。 「えっと、これは……?」 「あ、除菌スプレーです。ばい菌やっつけないとね!」 いや、除菌スプレーは言われなくてもわかるんだけど。竜太はにっこり笑顔で俺を見ながら、ベッドの周りやドアノブにもシュッシュとやってる。 「ばい菌」呼ばわり…… いや、確かに今の状態、俺はばい菌だけどよ……なんか違う! 看病されるのってもっとこう、もっと甘い感じじゃねえの? 「俺……ばい菌」 思わずそう呟くと、ベッドの横に戻ってきた竜太はクスッと笑ってスプーンで摩り下ろしりんごを掬った。 「やだなぁ、周さんがばい菌じゃないですよ。せっかく僕が復活したのにまた二人して寝込んだら元も子もないじゃないですか。それに僕の家ではこれ普通です。誰かが風邪ひいて寝込んだらマスクと除菌スプレーは欠かせませんよ。まぁ効果の方はわかりませんけど……はい、周さん、アーんして」 「………… 」 小首を傾げながら俺を見つめる竜太が可愛すぎる。もうばい菌呼ばわりされたのなんてどうでもいいや。俺は素直に竜太の作ってくれた摩り下ろしりんごを味わった。 「りんご、凄えうまい……でもエッチしたい。腹減った。今すぐ竜太を抱き潰したい。竜太を食いたい」 半ば朦朧としながら、思ったことが口からダダ漏れる。一瞬自分が何を言ってるのかわからなかったけど竜太の反応でハッとする。真っ赤になってもじもじしながら竜太は小さく「僕もです」と言い、そそくさと寝室から出て言ってしまった。 なんだよ。ああいう顔は反則だろ。こんなの長い付き合いで今更だし。でもいちいちウブな反応可愛いよな。あんなに恥ずかしがってるくせに、いざ始めると案外竜太も積極的なんだよな。エロいんだよなぁ。 あぁ……やりてえ。 熱出ると性欲湧くの? そんなしょうもない事考えてるうちに俺は眠ってしまった。 どのくらい眠ってたのかわからないけど、思いの外スッキリと目が覚めた。元々発熱と言ってもそれ程高くなかっただろうし、竜太が大袈裟だったんだよな。でもそんだけ心配してくれたのが嬉しかった。 「竜太いる?」 スッキリ目が覚めたものの、ちょっと汗かいて気持ち悪い。俺はここぞとばかりに竜太に甘えようとベッドから出ずに名前を呼んだ。少し間があってから、相変わらずの完全防備な出で立ちの竜太が顔を出す。 「あ、起きたんですね。顔色もいいし良かった! うん、熱も下がったかな。そろそろ汗もかいて気持ち悪いかなって思って僕、熱いおしぼり用意しましたよ」 言いながら竜太はテキパキと俺の服を脱がす。ちょっとびっくりするくらいの熱さのおしぼりでザッと体を拭かれた。凄く気持ちが良かったけど、あまりの手際の良さでなんだか俺、介護されてるみてえだな。 うん……やっぱり色気もクソもない。 「竜太ぁ……なんかこう、もっとさぁ……あぁ、いいや。竜太、ギュってして」 真っさらのTシャツを着せてもらいながら、俺は竜太に向かって手を伸ばす。 「周さん、甘えん坊さんで可愛いですね」 照れ臭そうに竜太が俺をギュッと抱きしめる。 もっと甘い感じに看病してもらいたかったなんて恥ずかしくて言いにくいからそう言ったけど、これはこれでまた恥ずかしかったな。

ともだちにシェアしよう!