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頼りになるのは……⑧

「なあ、もう俺元気だしさ……竜太もこっち来いよ。ベッド、入って」 ギュってしてもらったついでに竜太をベッドに引きずり込む。それでも「ダメです」って言いながらかなりの力で抵抗され逃げられてしまった。 なんだよ……いつもならノってくれるのに。 「周さんお腹空いたでしょ? たまご粥作るから待っててください……その後、ちょっとだけなら……いいですよ」 モニョモニョと恥ずかしそうにそう言うと竜太は部屋から出て行ってしまった。まあ、ちょっとだけでもイチャつけんならそれでいいや。俺は殆ど元気な体をまた横にする。 それにしても俺の看病で忙しなく動いてくれてるけど、本当にもう大丈夫なんだろうか。竜太だって病み上がりでしんどいんじゃないのか? きっと俺のせいで無理させちまってるよな。エッチしたいけど、程々にしねえとな……なんて心配してたら竜太の叫び声が飛び込んできた。 「周さんっ! これは何ですかっ? ちょっと! お鍋……! お鍋の底、抜けてる! フタも割れちゃってるし……これはいったい」 あ、やべ。見つかっちった。 俺は壊してしまった鍋を隠すべくゴミ箱に捨てていた。指を火傷したのはバレたけど鍋のことは言えずにいて、後でこっそり同じのを買っとけば大丈夫だろうと思っていたのに、何でこうすぐに見つけちまうんだろうなぁ。 「こういう時にあの鍋がちょうどいいって思ったのに! てか周さん、さっきの指以外本当に怪我してません? 大丈夫ですか?」 怒ってるみたいだけど、俺の怪我の心配をしてくれてるのが嬉しい。ちょっと指先を火傷しただけで他は本当に大丈夫だと伝えると竜太は複雑な顔で俺のことを見た。 「どういう風にしたらお鍋がこうなったんですか?」 竜太に真面目な顔で聞かれたので、もはや笑い話だよ……と事の経緯を細かく説明した。でも俺の話を聞きながら竜太の表情がみるみる強張っていくのがわかった。 あれ? 超怒ってる? 「……もういいです。周さん、笑い事じゃありません! 下手したら火事になってたかもしれないんですよ? 火をつけたら絶対その場から離れちゃダメです! 何悠長にシャワーなんか浴びてるんですか!」 そんなこと、子どもでも分かることだと竜太は怒る。 いや、弱火だったしすぐ出るつもりだったし、まさかこんなすぐ焦げるとは思わないし、ましてや鍋の底抜けるなんて夢にも思わなかったし…… ブツブツと言っていたら「言い訳はいいです!」って怒鳴られてしまった。竜太は普段怒ることなんて殆どないからめっちゃ怖い。 「あと、これ! 何でゴミ箱に入ってるんですか! これは燃えないゴミなんです。ここに入れて可燃ゴミで出すつもりだったんですか? ちゃんとルールは守らないと! それにこういう割れ物は紙袋とかに入れて外から割れ物だって分かるようにしないと、ごみ収集の人が怪我しちゃうでしょ? この辺りもゴミ出しのルールは僕のとこと一緒ですよね? 周さんもこれを機にちゃんと覚えてください! もういい大人なんですから!」 俺の失態が余りにも酷かったのか、竜太は結構な剣幕で俺の普段の行動も色々と注意をしてきた。俺が竜太に任せっきりな姿勢が悪いんだけど、ここぞとばかりに竜太が怒るもんだから何も言い返せなかった。 こういう家の事はいつもさらっと竜太がやってくれてたし、正直気にしたことがなかった。竜太にこっぴどく怒られてマジで凹む。大人になって怒られるなんてことは少なくなったし、それに好きなやつにこうも言われると本当に情けなく、地面にめり込んだ気分だ。軽く考えてた己の行いが恥ずかしい。 「ごめん。竜太、いつもありがとな。俺、ちゃんとするからさ、もう怒んないで……」 傷心ガチ凹みモードで竜太に謝ると、ハッとした顔で竜太も俺に謝った。 「周さん、毎日仕事やバンドのことで忙しくしてるし、こういうのは僕がやってあげたいからいいんです。でも周さんもちゃんとこういう事わかってないと周りに迷惑かけちゃうし、印象も良くないです……僕なんかがしょっ中部屋に出入りしてるのもあるし出来るだけご近所からは悪い印象持たれたくないなって思ってしまって……ついキツく言っちゃいました。ごめんなさい周さん」 「………… 」 竜太は男の一人暮らしの部屋に、同じ男の自分がしょっ中買い物袋を持って合鍵で出入りしてたり泊まって行ったり、洗濯やらゴミ出しやらをしているのも、もしかしたら近所から好奇な目で見られてしまうかもしれないって、そんな事を少なからず気にしていたらしい。俺なんかそんなのちっとも気にも留めてなかったっていうのに……そして俺以上に、近所の奴らに会えば挨拶を交わしたり竜太なりに気を使ってくれていたのを初めて知った。 ほんと嫁かよ。 「俺、竜太がいてくれてほんとよかった。もう、大好き……ずっと俺のそばにいてね。俺の嫁さんでいてな」 気い使いで優しくてしっかり者の竜太が堪らなく愛おしくてもう一度抱きつき捕まえると、竜太は困った顔でクスッと笑って俺のことを抱き締め返す。 「嫁ってなんですか。もう、今更……言われなくても僕は周さんとずっと一緒にいるつもりですよ。そんな可愛いこと言って誤魔化されませんからね。お粥作ってくるから離してください。はい! イチャイチャお終い! また後で」 すっかり怖い顔じゃなくなった竜太が機嫌良さそうに俺の頭を撫でてから部屋から出ていく。お粥なんてもうどうでもよかったけど、せっかくだからもう少しだけ甘えて食べさせてもらおう。 俺はまたベッドに潜り、竜太のお粥ができるのを待つ。 そして今度竜太と時間が取れる時にでも、ちゃんと料理を教えてもらおうと本気で思った。 ── 頼りになるのは…… 終わり ──

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