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賑やかなクリスマス③/竜太と尚

 今年のクリスマスは二人でのんびりと過ごそうと、周さんと決めていた。毎年周さんはライブに招待してくれたり、僕のために素敵な店を予約してくれたり、サプライズだと言って驚かせてくれたり……申し訳ないくらい僕のために尽くしてくれる。もちろん僕だってそうしているつもりだけど、いつもいつも甘やかされてしまうんだ。  ここ最近は僕も周さんも忙しくてなかなかゆっくり会えないでいた。だから今日は僕がちょっと料理を頑張って、お家でのんびりとクリスマス気分を味わえたらなって思っていた。久しぶりの周さんの家。僕はいつも以上に浮かれた気持ちで、合鍵を使い玄関を開けた。  確か周さんが高校を卒業してすぐだったかな……突然できた周さんの妹の尚ちゃん。赤ちゃんだった尚ちゃんを二人で一日預かったのはまだ僕の記憶に新しい。それなのに、今目の前にいる尚ちゃんはもう赤ちゃんなんかじゃなくて、一人の可愛らしい女の子だった。 「周くんとりゅうたくんは仲良しのお友達?」 「うん……そうだね、仲良しだよ。尚ちゃんもよろしくね」  僕の想像よりずっと大人びた話し方をする尚ちゃんにそう聞かれ、ちょっと迷いながら「仲良し」だと答えてしまった。でも嘘を言っているわけじゃない。周さんはそんな僕を一瞥し「恋人」だと訂正した。男同士なのに尚ちゃんはどう思うか心配だったけど、そんな僕の心配などどうってことはなかったみたいだ。むしろ恋人同士だとわかった途端気を使ってしまったのか、尚ちゃんの元気がなくなってしまって僕は動揺してしまった。   周さんはそんな尚ちゃんを抱き上げると、優しい笑顔でフォローする。周さんのこんな表情、正直言って初めて見たかも。当たり前だけど周さんはちゃんと「お兄ちゃん」で、僕までなんだかキュンとしてしまう。すぐに機嫌を直した尚ちゃんが僕にも手を伸ばしてくれたから、嬉しくなって周さんの真似をして抱っこしてしまった。    予定は違ってしまったけど、周さんと尚ちゃんと三人で買い物に出かけた。  今日はお気に入りの服を着てきたのだと言って、尚ちゃんは僕の前でスカートをヒラヒラさせながら一回転する。一々仕草や言動が可愛くて、僕はずっと目尻が下がりっぱなしだった。世のお父さんが娘に甘いというのはきっとこういう気持ちに近いのだろうな。 「りゅうたくん、尚、可愛い?」 「うん、可愛いよ」 「へへ、ありがとう。りゅうたくんもね、すごくかっこいいね」  口に手を当て、照れたように笑いながら周さんに聞こえないように小さな声で僕に言う。本当に可愛くて僕まで照れくさくなっていたら、周さんに肘で小突かれてしまった。 「尚? お前幼稚園に好きな奴とかいねえの?」 「え? いるよ! トシくんとみちよちゃんとハルキくんと、あとれいちゃん!」 「おぉ、いっぱいいんだな……」 「トシくんは尚のこと彼女にしたいって言ってるんだけどね、尚はトシくんよりれいちゃんの方が好きだからいやなの……でもれいちゃんも尚も女の子だからそう言うのは「好き」って言わないんだよって言うから……よくわかんない」  最近の幼稚園児ってこんな会話をするものなの? 彼女にしたいとか……僕はびっくりしてぽかんとしてしまう。まあでも、今言っている「好き」と言うのは深い意味はなさそうだけど、僕的にはそのトシくんとやらは好感は持てないかな。「何処の馬の骨だ?」って気分だ。なんとなく自分が尚ちゃんのお父さん目線で見てしまっていることに気付いてちょっとおかしかった。 「そのトシって奴は俺は好かんけど……男でも女でも尚が好きだって思うやつと仲良くすりゃいいよ。てかお前、気が多いんだな」  周さんの言葉に、尚ちゃんも嬉しそうに「うん」と元気に返事をする。苦手な子や嫌いな子がいるより、好きな子がたくさんいた方が幼稚園も楽しいよね。

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