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賑やかなクリスマス⑥/イチャイチャ

 竜太がほとんど尚の面倒を見ていてくれたから、俺は無理やり預けられたものの楽だった。気がつけば康介、修斗も加わり、狭いアパートがますます狭苦しく窮屈になっていた。  部屋の飾り付けはもちろんのこと、俺がちょっと昼寝している間にすっかり部屋はクリスマス一色になっていた。  買ってきたチキンにポケットサンドイッチ、これは竜太が得意にしている俺も大好きなサンドイッチだ。厚めに切られたパンの間に何種類かの具材がみっちりと詰まっている。俺好みの卵焼きと近い味付けのスクランブルエッグやハム、ケーキに使って余った生クリームと果物を挟んだ尚の好きそうなフルーツサンドもある。小さな尚にも食べやすくカットされていて、そんな気配りが竜太らしい。ポテトサラダはツリーに見立ててあり野菜でデコレーションしてある。尚もたくさん手伝ったのだろう、しきりに自分が手をかけたところを俺に説明する様子にどれだけ楽しかったのかが伺えた。香ばしい湯気を立てているオニオンスープも確か尚の好物なはず。こんなチビ相手にしながら竜太はよくここまで料理を作ったな、と感心した。 「すげえな。尚、よかったな〜。あの飾り、尚がやったんだろ?」 「そう! りゅうたくんが高いところにいっぱいつけてくれたの。あとね、しゅうとくんがね、尚のこと抱っこしてくれたからあっちの上のは尚がつけた!」  俺はあまり手伝わなかったと言ってちょっと頬を膨らませた尚だったけど、それでも楽しさが全身から滲み出ているのがわかって安心する。 「相変わらず竜の作るの旨そうだな! 早く食おうぜ。俺、腹へった—」  康介は竜太の飯を食うのは久しぶりだと言いながら、一人早々と席につく。「尚ちゃんこっちおいで」なんて調子よく手招きしたけど、ふいっと無視されてて笑っちまった。 「尚はね、しゅうとくんと一緒に食べるの。ね? いいでしょ?」 「もちろん、ほら、ここにおいで」 「ふふ、ありがと—」  修斗は尚を膝に乗せると後ろからギュッと抱きつき「何から食べようか」なんて話しかける。康介はそんな様子にアホみたいに口をポカンと開けて言葉を失っていた。 「尚ちゃんね、なんだかすっかり修斗さんに懐いちゃって……さっきからずっと二人くっついてるんですよ」  竜太が俺にこっそりと耳打ちする。「修斗さんが一番かっこいい」なんて言っていたらしい。 「僕のこともかっこいいって褒めてくれてたんだけどな。やっぱり修斗さんには負けちゃうか」  クスッといたずらっぽく笑って竜太も康介の横に座る。修斗は修斗で尚に言われるがまま給仕している。さながら尚の専属の執事のようだ。 「これ、尚がりゅうたくんと一緒に作ったんだよ。はい、食べて」 「尚ちゃん食べさせてよ」 「はい、あ—んして……おいし?」 「うん、最高」  挙句修斗の口元に何度もケ—キを運ぶ尚を、康介が嫉妬の塊のような微妙な顔でじっと見ている。修斗はそんな康介の嫉妬心を煽るようにわざとらしく尚を褒め、見せつけるようにイチャイチャしていた。  修斗はわかっててわざとやってるし、康介は康介であんなチビ相手に本気で焼きもち妬いていて、ほんと馬鹿だなって思う。でも面白えから俺も竜太も気にせず料理を堪能した。

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