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第29話
「えっいや、別に…」
そんなつもりでは、と驚きつつ言い返すみずき。
「いいから、そうだね…例えば、ご飯奢って欲しいとか、ゲームを買って欲しいとか、俺とデートしたいとか…」
やはり雰囲気を変えず、にこやかに言うコウヤ。
「えっ…」
最後の例えは、なんだか不自然な例えだったが…
「…ふふ、固く構えなくてもいいよ、聞きたい事でもいいし、ほら、早く言わないと、3、2、1…」
そう急かすコウヤ…
「あのっ、演技…教えてくださいっ」
コウヤの言葉につられて敬語で言ってしまうみずき。
「えっ?」
少しからかい気味だったコウヤだが、軽く首を傾げて聞く…
「……今度、年下の人と撮影があって、はじめてリードする立場になるから…」
考えながら、不安な事を伝えるみずき。
「…それで、演技…教えてほしいって?」
「…はい」
うつむきかげんに返事するみずき。
「…まじめだね、ユウは…」
コウヤは感心したように言う。
続けて…
「ユウは演技ウマいから、大丈夫だと思うけど?」
「……」
コウヤの言葉を聞いて首を横に振り、
「攻の方の仕事…先輩相手に数回しかしてないから、自信がない…」
視線を落として答える。
「…ユウ」
本当に不安な様子のみずきを見て、コウヤは…少し言葉を無くす。
そういう話をしても、今の自分を彼の前で保っていられるか…
不安がよぎるコウヤ。
信頼は失いたくない…
コウヤはユウに対して、複雑な感情を抱いていた…。
出会ったその瞬間に味わった恐怖をひきずる心…
…償いの気持ち、独占したいという気持ちに…好きだと思う気持ち、そして罪悪感…
どれが正しいのか…
ユウを思う気持ちが不確かだから…。
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