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第69話
「…あの、」
分かったところで、みずきが言葉をだそうとするが…
「…冗談。冗談だよ…」
微笑みながら言葉にして離れるコウヤ。
「えっ?」
コウヤの言葉に瞳を見返すみずき…
「ふ…驚いた?」
床に落ちたタバコを拾い、自分の分と一緒に灰皿で消すコウヤ。
「……」
微笑んではいるけれど、なんだか伏せ目がちなコウヤの様子を見てみずきは…
「…あの、コウヤさんがつらくないのなら…オレは、」
コウヤの服を軽く掴んで…そう言葉を出す。
「…駄目だよ、誰にでもそんなことを言っちゃ…」
みずきのくちびるを人さし指で塞ぎながら…コウヤは囁く。
「…コウヤ、さん」
首を横に振って…名前を呼ぶみずき。
誰にでもこんなことは言わない、信頼してるコウヤだから…
「わかってる…君は真面目なコだもんね。でも…ここに、誘い入れた俺が言えることではないけれど…」
コウヤはみずきの髪に触れながら…
続けて…
「…心配だから」
矛盾する気持ちの中からそれを選び、ぽつりと伝える。
「…なにが?」
「君だけは、ここの…BOUSの雰囲気に染まって欲しくない」
性を売り物にしているここでは、感覚が麻痺して自分の価値を安く扱ってしまいがちになるけれど…
みずきには、そうなって欲しくない…
「……?」
コウヤの思いがわからなくて軽く首を傾げるみずき…
「誘われても、その場に流されたりしたら駄目だよ…先輩でも、嫌な時は断らないと…自分の価値を下げてしまうから…」
自分が抜けた後…
みずきはハタチまで約6年、ここで働かなくてはならない。
欲が優先するここで…
手の内に居させたかった為に引き込んだBOUS…
けれど…
離れなくてはならなくなって、ここへ連れてきた事を深く後悔するコウヤ。
気休めにそう忠告して別れたかった…
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