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二度目のプロポーズ
寝ぼけてぼんやりとしたまま、僕はすぐ隣にある温もりに身を擦りよせて、そこに顔を埋めた。
「エル、おはよう」
ヴィル様は小さく笑い、僕を引き寄せて包み込んでくれる。僕はその温かさにドキドキしながら、ヴィル様を見上げた。
「おはようございます、ヴィル様」
「今日は休みを取ったから、ゆっくりできるよ」
「本当に? よかった…」
「マルセルの事はお願いしてあるし、二人でのんびりできるからね」
ヴィル様、最近忙しくて休みもろくに取れてなかったから、ずっと心配だったんだ。
それに久しぶりに二人でいれるって考えると、頬が緩んじゃうよ。
マルセルはあと少しで一歳で、やっと僕から離れて過ごせるようになってきた。どうしてかはわからないけど、どうしても僕じゃないとダメみたいで、乳母さんに任せることなく、ずっと僕がつきっきりだったんだ。
「だから、ね?」
うん、そう来ると思った。
でも、嬉しい。こうしてのんびり朝から、その、イチャイチャする時間なんてなかなか取れなかったから。
僕が頷くと、ヴィル様の顔が近づいてきて、唇が触れて、ヴィル様の熱が太腿を掠った。
そういえば、昨晩、浄化魔法かけただけで、そのまま寝たから二人ともなにも着てないんだった。
深いキスをされながら、ヴィル様の手がまだ柔らかい後ろに触れて、解していく。もうそれだけで、僕の息はあがり始めて、厭らしいスイッチが入ってしまう。ヴィル様の首にしがみ付いて、もっともっとって夢中でキスを求めちゃうんだ。
「……ん、んぅ……っ……は、ぁ……」
指の代わりに宛てられたものがじわじわと入ってきて、ヴィル様に満たされていく感覚にうっとりする。何度も何度も角度を変えてキスされながらだともう気持ちよくてたまらない。
頭の中が快感に埋め尽くされて、ジンジンしてくると、もうヴィル様のことしか考えられなくなる。
奥まで満たしたあと、口を離したヴィル様と目が合って、お互い微笑み合って、ちゅって軽くキス。
はぁ、甘い。久しぶりだ、こんな甘い朝。
日の光でヴィル様の髪がキラキラ輝いて、ヴィル様自身が光を纏ってるみたいに見える。本に出てくる王子様そのもの。って、本当に王子様なんだけどね…。
もう一度目が合うと、それが合図になって、ヴィル様がゆっくりと腰を揺らし始める。じんわりと湧きあがる甘い快感に僕は身を任せた。
結局、ヴィル様の貴重な休日を昼前までアレに費やしてしまった…。もったいないわけじゃないんだけど、なぜかもったいなく感じてしまう。
でも、
そう感じた半刻後の今、ヴィル様と僕は目的地に着いたみたいだった。
転移する前に目を瞑ってって言われて、ヴィル様の手を取ってから、素直に目を閉じた。
何があるんだろうって、ドキドキしながら、ヴィル様の「開けていいよ」っていう言葉と共に瞼を開いた後、僕は目を見開いて、口を馬鹿みたいにぽかんと開けたまま固まってしまった。
すごいとか、きれいとか、そんな平凡な言葉で表すのが申し訳なくなるほどの神秘的で荘厳な景色。
突き抜けるような青い空と鬱蒼とした緑、頂に雪をかぶった山脈が延々と連なり、山に住む動物の声や風の音だけが響く、とても静かで穏やかな所。
ただ、その絶景に目が釘付けになって、自分がどこに立っているかなんて全く気にならなかった。
何かが僕の頬を擦って、それがヴィル様の指だって気付いてから、やっと自分が泣いてるってわかった。
「また、泣いちゃったね」
ヴィル様の柔和な笑みにまた込み上げるものがあって、ぶわって涙があふれてきた。
「本当に、エルは…」
そういって、ヴィル様は僕の事をギュって抱きしめてくれる。
「……ヴィルさま、ここ…」
「龍の山脈。エルはここには来たことない?」
「はい。僕は飛べない、から…っ…!」
ふと足元に目を落とすとそこは断崖絶壁で、僕は足が竦んで、隣にいるヴィル様にしがみ付いた。
見上げると、ヴィル様のしてやったりな笑顔。
「もう、ヴィル様!」
ごめんごめんって、ヴィル様がギュっと僕を引き寄せておでこにキスする。
ううっ、もうこのパターンが日常化してる気がする。いつになったら僕はこのヴィル様の悪戯に先に気付けるんだろう。
「ここなら、護衛もつけずに二人でいれるからね。本当に二人きりだよ」
ってことは、ここなら人目を気にせずにヴィル様に引っ付いてられるんだ。う、嬉しい。
部屋の中で防音結界張って完璧な閉鎖空間にしないと、あの行為もするの恥ずかしくて、ヴィル様にはいつも気を使わせてしまってるんだよね。
それにずっと誰かに見られてるような気がして、すこし神経が過敏になってたんだ、最近…。
そのことに気付いててくれたのかな…。
僕はぎゅーってヴィル様を抱きしめて、また涙が溢れてきそうになるのを我慢した。頭の上で、ふって笑い声が漏れた後、ヴィル様の大きな手が頭を撫でてくれた。
全部ヴィル様のおかげだよね。ヴィル様の転移魔法っていう究極の便利魔法がないと来れないんだから。
でも、デートっていう、おもいっきり私的なことに転移魔法を使うなんて、精霊様にも申し訳ないし、罪悪感たっぷり…。
とは言え、ヴィル様と二人になれて安全なのはここしかなくて。ここに来るには転移魔法が必要で。そんな思いがぐるぐるしちゃう。
『気にしないでいいのよ、エルヴィン』
『僕たちもここに来れるのは嬉しいから』
『逆に付き合わせてるのは私たちだよね』
『だよなー。お前らも少しは二人になりたいだろ』
『じゃあ、私たちはちょっと遊んでくるねー』
気持ちを察してくれたのか、ヴィル様の精霊様が周りをふよふよと飛び回って、慰めるようにして僕の頭をポンポンポンポンと順番に撫でてくれる。
「あ、ありがとうございます」
そして、横にいるヴィル様もにっこりと優しく微笑んでくれる。
「彼らもここで霊的な癒しが必要だから、ちょうどいいんだよ」
「霊的な癒し…?」
「うん。龍の山脈は全ての起源と言われていて、彼らの生まれ故郷でもあるんだ。一種の里帰りって言うのかな。エルもたまに里に帰りたくなるよね? それと一緒」
「――よかった。そういう理由があるなら、気兼ねなくヴィル様と二人で過ごせるってことですよね」
僕がそういうと、ヴィル様は嬉しそうに目を細めて笑みを濃くして、僕の肩を抱いて引き寄せた。
ここは人が絶対に辿り着けない龍の山脈にある絶壁の上に立てられた、ヴィル様専用の小さな小屋らしい。
ただ、小屋って言っても、見られる心配がないから、壁がなくて柱と屋根だけ。高度の高いところにあるのに全然寒くないし、どこにいても溜息の出るような外の景色が眺められる、何とも贅沢で快適な空間なんだ。
ヴィル様は一人になりたいとき、ここに来て過ごしてたんだって。ヴィル様と僕以外知る人のいない秘密の場所なんだ。
他の賢者様もこの龍の山脈のどこかに家を建てて住んでいて、必要な時に街に出るんだって。やっぱり突出した能力を持つと人との関りが煩わしくなってしまうみたい。
「あのね、エル」
その声に僕はヴィル様を見上げた。
「役目を終えたらここに住みたいと思ってるんだ。エルは付いてきてくれる?」
「ここに家を建てるんですか?」
「うん。小さな家。エルのお店を運んできてもいいよね。お風呂大きいし」
くくって、幸せそうに笑みを浮かべるヴィル様。
ああ、僕とずっとずっといてくれるんだ。僕とここで過ごすことを想像してくれてるんだ。
胸がほんわりと温かくなって、僕はヴィル様にしがみ付いた。
「ヴィル様と一緒が良い。ヴィル様と一緒ならどこでもいいです。どこにでもついて行くから」
珍しく、ヴィル様は少し困ったような笑みを浮かべた。どうしたんだろう。何か不安なのかな…。
どうしたんですか、と僕が言おうとすると、ヴィル様が先に口を開いた。
「……これから王位を継ぐまでにも、継いでからも、エルには辛い思いをさせるかもしれない。もしかすると失脚して、国を追われるかもしれない。それでも…」
そっか、ヴィル様はずっと不安だったんだ。どれだけレオンハルト様やディー様みたいに優しくて頼れる友人がいても、王子、そして国王っていう重圧には一人で耐えなきゃいけない。
僕はヴィル様を支えて行けるかな。ヴィル様の安心できる場所になれるかな。
――ううん。そうじゃない。ならないといけないんだ。
「それでも、です! 僕はずっとヴィル様の傍にいるから! 僕がヴィル様を護るから!」
「…エル…、ありがとう」
少し目を瞠って僕を見つめてから、ヴィル様は破顔して、僕のおでこに口づけた。
全てをそつなくこなし、弱みを見せない、すべてを軽い作り笑いで流してしまう|ヴィル様(このひと)が安心して帰ってこれる場所になる。それが僕に与えられた宿命だって今ならわかる。
賢者は人間であるけれど人間からかけ離れた存在で、まるで混血みたいなんだ。長老様が言ってた、『添い遂げるには適任』って言っていた意味はきっとこのことだったんだ。
僕にできることって限られてるけど、ヴィル様を想う気持ちは誰にも負けない自信があるからね。
……ちょっと待って、僕、勢いに任せて何て言った?
傍にいるからとか、護るとかって、……と、とんでもなく恥ずかしい発言、だよね…。
急に我に返って、恥ずかしさに、かあっと顔に熱が集まってきてしまう。
そんな僕を見て、また、くくってヴィル様が笑った。
「エルの気持ち、本当に嬉しい。なんだかプロポーズされた気分になったよ」
「プ、プロポーズ…」
「うん、これで二回目だね」
「に、二回目?」
「龍の里に行ったときに、プロポーズしてくれたよね」
プロポーズしてくれたのはヴィル様だよね…? なんで? 僕がしたの?
「エルが俺に結婚してくださいって言ったの。覚えてない?」
「えっ…、どどどういう…」
「エル、あの時、俺のプロポーズには返事くれなかったんだよね。だから今もう一回してもいい?」
え…?
ヴィル様があの時みたいに跪いて、僕の手を取って。
「一生大切にすると誓う。だから、俺と共に歩んでほしい」
なんでヴィル様はこんなに僕を驚かせるのが好きなんだろう。僕は、僕は…。
「…はい、ヴィル様」
「様はいらないよ、エル」
え、様、様なし…。
「……はい、ヴィル…」
「もう一回呼んで」
「…ヴィル…」
「もう一回」
「ヴィル」
「もう一回」
「ヴィル――んんっ…!」
ヴィル様…じゃなくて、ヴィルが勢いよく立ち上がって、ぶつかるようなキスをしてくる。
「エル、…エル、愛してる」
「僕も、僕もヴィルを愛してる…っ」
「……っ……は、ぁ……ぁ…ん……」
クッションに凭れて寝転ぶヴィルの上で、くっきりと割れた腹に手を置いて、僕はゆっくりと腰を揺らした。恥ずかしすぎるけど、ヴィルにお願いされたら断れないから仕方ない…。
しかも、この絶景に囲まれてこの行為をしてるっていう、神聖なものを穢してるような背徳感。
「ほら、エル、膝立てて」
「……や、ぁ、……ん、ん…」
「でも、足りないよね」
下から突き上げられて、一度でも奥に届いてしまうと、もうそこが疼いて仕方なくなる。
「…も、……だめっ…」
欲しい欲しい。
それだけが頭を占めて、ヴィルに言われた通りに膝を立てて、腰を上下させた。
「気持ちいい?」
「…は、…きも、ち……ぃ、ぁ…」
「繋がってるところ、はっきり見えてるよ」
「……んっ…み、みちゃ、ぃや…っ…」
意地悪に微笑んで、その繋がっている縁をなぞって来る非情なヴィル。でも、もう気持ちよくて止まれない…。
「ほら、ここ、おいしそうに咥えてる」
「…やっ…そんな、ふうに、いわないでっ……」
動きに合わせて、ヴィルが突き上げてきて、欲しかった奥にガンガンぶつかってくる。その強烈な快感に僕の体が勝手に震え始めた。
「…ぁ、…っ…や…、はぁ…っ…ァ、…」
気持ちいい、気持ちいいよぉっ!
「…イキそう?」
「…ぃ、く……あっ、だめっ……っ……!」
まだ痙攣してるのに、僕の腰を掴むと、ヴィルはお構いなしにグイグイ押し込んでくる。
揺さぶられるうちに、いつの間にか、僕はベッドの上に寝かされ、ヴィルの荒い吐息が唇にあたる。息を食べられるみたいに口を塞がれて、気持ちいいところを的確に突かれて、助けを求めるみたいにヴィルの肩を掴んだ。
「…も、やぁ……はげし、よぉっ、…はっ、ぁ、きちゃうっ……」
「いいよ、エル、一緒に」
「…ヴィル…、ヴィル…っ………ぁ、あ――っ!」
「…は、…くっ…ぅ…」
奥にヴィルの放った熱を感じながら、意識を手放した。
次に目を覚ました時には、もうほんのり空がオレンジがかっていた。
「エル、外に出よう」
僕が起きたことに気が付いたヴィルが、僕を抱き上げて、外が良く見えるところまで連れて行ってくれる。
「わ、ぁ……」
そこには夕日に染められた山々が燃えているみたいだった。
どうして、どうして、こんなに喜ばせてくれるんだろう。
「…っ……ヴィル、ヴィルっ…」
「エル…?」
泣きじゃくる僕をヴィルは不思議そうにしながらも撫でてくれる。
「……ありがと…っ…」
泣いている意味を察してくれたヴィルは僕を強く抱きしめて、何度も顔にキスを落とした。
「頻繁には来れないけど、またこの景色を二人で見に来ようね」
僕はコクコクと何度も頷いてから、柔らかく微笑んでるヴィルの不意を突いて、その形のいい唇にキスをした。
触れてたのは一瞬だったけど、ヴィルは目をまん丸くして、そして、本当に本当に幸せそうに微笑んだ。
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