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第四章◆血ノ奴隷~Ⅸ

      神聖な光に満ち。 床と壁の(さかい)も、柱と天井の高さも、奥行きさえ、曖昧(あいまい)な空間。 石英硝子(シリカグラス)をあしらった装置が複数浮遊する中央には、 別所で進む公会議の様子が立体的に映し出される。 机に(うで)を置き鎮座(ちんざ)するは、一般に〈白兎(ハクト)〉と呼ばれる公法人。 教会の信条と神秘的理学分野に精通する彼らは、 審問官や議院より下位にありながらも力関係上、同等という異色の存在だ。 時には行政の不備を補い、時には民意にそぐわぬ権力を制す。 内、一人が静やかに()いた。 「結社の闇深きこと。(いと)うても()む無し。  (しか)るべきは〈(みかど)ノ血〉 を継ぎし子の保護と監視である」 血のように赤い厚手の生地に金の刺繍を(ほどこ)した眼帯。 両目を(おお)い、真っ更なフードローブを深々と着込む様相から、 性別はおろか、個人の識別すら難しいが... 彼らに不都合は無い。 そもそも、見る必要が無いのだ。 「御国(みくに)の執権に縛られ利用されるがままとは言え。  亡国の末裔(まつえい)には捜索を続けてもらわねばなりません」 「全会一致ですね」 彼らは、とある人物の読み解く世界を共有している。 「()すれば、過激派(パルチザン)の妨害を阻止せねばなりません」 「現在は大貴族及び元老院(マグナート)の勢が〈末裔の心臓〉を握っておるでな」 ある神話に登場する白兎(ハクト)には先見之明(せんけんのみょう)(そな)わっており、 神々の星回りをも見通したと言う。 「見す々(みすみす)帝都から(のが)すまいて」 「彼ノ尊(かのみこと)()いた種。それが次々と  芽吹き始めた ... この期を利用しない手はありませんし」 「まずは下僕(しもべ)を潰しに来るでしょう」 「末裔は、単独で(みこと)の気配を追うつもりのようですが」 「ともすれば... ()ノ下僕に(すべ)ての罪を()ってもらうより(ほか)無いな」 彼らが(うつむ)(ごと)に... 顔を上げる毎に...  赤い瞳を()し目元を縁取る刺繍が、光を弾いた。 「今は結社に取り(つくろ)わせるが得策か... 」 「然様(さよう) ... 帝ノ血が成熟するまでは ... 」 「熾金剛(イグニス) ... 〈預言者(エレミア)〉と〈主神(ティワズ)〉を結ぶ楔子(けっし)...  禁断ノ翠玉碑(エメラルド・タブレット)と共に、何としても手に入れなくては ... 」 被告人の審問は数日置き。複数回に渡る。 在宅起訴と相俟(あいま)った異端ノ魔導師は現在、本人所有の屋敷へ帰宅とあるが。 なおも軍警の監視下に置かれている事に変わりは無く。 国営局の速報が随時(ずいじ)、割り込む投写空間の片隅(かたすみ)(ひそ)みながら ... 何を思い(たたず)むか。 カーツェルは、二階(ファーストフロア)に立ち居て窓の外を(にら)み、待った。 白兎の見る、赤い... 赤い... 世界は、まるで ... ... ――― まるで、死したる者の見てきた走馬灯(そうまとう)。 恐らくは、預言者の見る夢のようなものと推測する。 フェレンスの脳裏に、一人の娘の姿が彷彿(ほうふつ)とした。 銀白のドレスに身を包み、上質なプレシャスオパールの散りばめられたティアラを(かん)す。 彼女と直接、対面したことはない。 フェレンスの想像するそれは、カーツェルの思い出話に由来した。 湯船から出てタオルを取り、耳元から首の後ろへと当てていく後ろ姿が、 湯気を(まと)ったままバスルームを後にしたところ。 頃合いを見て(あらわ)れるカーツェル。 用意されていたバスタオルを先に取った彼は、主人の背を(おお)うようにして広げた。 いずれは伝えねばならぬ事。 だが知らぬが(ほとけ)という言葉もあり、あえて黙秘してきた。 そんな主人の様子を察してか、彼もまた(たず)ねようとはしない。 それなのに、肩に掛けたタオルの上からフェレンスの身体を()で下ろす手が物語るのだ。 意識を()き乱す不可解な衝動。 震える指先。 気付けば、目の前にあった肩を引き寄せ、首筋に顔を埋めている。 そんな自分の姿を鏡越しに見て、カーツェルは戸惑(とまど)った。 抑えが()かず荒らぐ息。 フェレンスの(くちびる)が耳の(ふち)(かす)め、 息が ... 脳内にまで吹き込むかのように錯覚(さっかく)する。 「目を覚ましなさい ... 」 フェレンスの(ささ)きを聞く前から、そんな気はしていた。 「今 ... いいや、帝都へ向かう頃からお前が(いだ)くようになった〈その感情〉は、  英霊との融合(ゆうごう)を繰り返してきた事で、お前の意識に焼き付くに(いた)る〈彼の未練〉 ... 」 説明によるところの 〈この感情〉 は、自分のものではないと。 そう、彼、本来の想い人は ... ... 銀白のドレスに身を包み、 上質なプレシャスオパールの散りばめられたティアラを冠す。彼ノ姫君である。 なのに、どうして、こんな事に。 「 ... 何故(なぜ)、黙っておられたのです ... ? 」 カーツェルは問う。辛うじて体裁(ていさい)(たも)ちながら。 「予感はあった。だが、お前の誠実さを思えば、まさか揺らぐまいと ... 」 聴いた瞬間は グッ と(こら)えるも。 カーツェルは即座(そくざ)(うで)(ほど)き、鏡に映る自分とフェレンスに背を向けた。 かと思えば手早くタイを(はず)して一括(いっかつ)する。 「当 ... っ たり前だろーが!!」 やってらんねー!! 今更ながら、真面目に仕事する気が()せた。 「いくらお前が人よりちょっと長生きな変わり者だからってな!!  どうして、あの竜騎士と!? つか、あいつ、亡国ノ英雄なんだろ !?  それが ... ハァ!? ありえねーだうが普通!! そんな奴の未練なんか、何で俺が!?」 「カーツェル ... 」 「しかも ... 〈未練〉 って言うと、この場合  アレだろ ... ? アレって言うと、ソレしかねーよな ... 」 「少し落ち着かないか」 「うん。分かってる。分かってんだよ。落ち着いてな。  アレとかソレとか言ってる場合じゃねーんだって。  だよな。うん。落ち ... 着いて ... ハァ ... ハァ ... ハァ ... 」 聞けば(ひど)く混乱している模様(もよう)。 言っていることの脈絡(みゃくらく)(まった)(つか)めない。 こういう時は()おっておくのが良い。 フェレンスは、それとなく無視することにした。 会話が可能になるまで、髪でも()いていようと思う。 魔導装置(マギカリウム)でも流せない瑕疵(かし)とは想定外。 こちらとしても不都合でしかないだけに。 手立てを考えねばならなかった。 カーツェルの譫言(うわごと)は、まだ続く。 「つか、野郎(やろう)同士じゃねーか。ネタじゃあるまいし ...  だからって趣味を(うたが)うワケじゃねーけどな ... ああ、そうだよ、そうだった」 そもそも ... ... と、彼は繰り返した。 「そもそもな。前もって聞いてりゃ ... さ、  自分の頭がイカれちまったんじゃねーかとか、余計な心配しなくて済んだんだ!!」 いの一番に予定していた責め文句が今頃、出てくる。 「この ... !! 秘密主義も大概(たいがい)にしろよ ? あ ? 聞いてんのか、コラ ! 頓馬導師(とんまどうし) ... !」 戸惑(とまど)い転じて(あら)ぶる。なんちゃって執事。 彼は、まるで我儘(わがまま)の通らぬ子供のように身体を揺さぶって歩き回った。 だがそれで気分が晴れるはずもない。 次には力任せに振るった手で、フェレンスの肩を(つか)む。 そこでまた、今更のように思い出すのだ。 相手が全裸であったことを。 (しば)し硬直。 「あぁああぁぁぁぁぁぁ!! そんな目で俺を見るなぁああぁぁぁぁぁ!!」 自分でした事を棚に上げ()()り返り、手で顔を(おお)ったりなどして。 目が合った時にしろ。フェレンスの困り顔を見て一瞬、胸が キュン としたなんて言えない。 言えるか!! これは、この感覚は、感情は ... 違う。 俺のものじゃない。俺が感じてるものでは断じてない ... ... 繰り返し自分に言い聞かせるも、動悸はなかなか収まらないし。 どうしたらいい。一先(ひとま)ず落ち着け。落ち着け俺。 彼は前屈みに(うずくま)り、一心に念じた。 自覚したのは、少年の血の瘴気(しょうき)にあてられた(さい)、我を失うなどといった不調に(おちい)ってから()もなく。 白昼夢(はくちゅうむ)を見たり、これまでフェレンスに対し(いだ)いた事のないような感情や言葉が胸を突くのだ。 それも唐突(とうとつ)に。その時々の雰囲気が引き金になっていたのだろうと思う。 確信したのは、帝都に着いた日。フェレンスが()ノ竜騎士に(ささや)きかけた ... あの時だ。 『貴方(あなた)は ... 彼の意識に干渉(かんしょう)しすぎる ... ...  グウィン... ... 私への未練を、彼に着せるのはやめて下さい ... ... 』 意識を取り戻してみると獄中(ごくちゅう)。 説明を聞こうにも、自ら出頭したフェレンスは(すで)(とら)われの身だった。 友として、彼は言う。 「今後、お前が考えそうなことは分かってた。だからこうして戻って来たんだ ... ... 」 また、はじめは譫言(うわごと)のように。 しかし彼は、やがて立ち上がり、はっきりと言う。 「お前が思ってるような理由なんかじゃない。  憶えとけよ... 俺はな、あの竜騎士とは違う。  お前に〈そういう意味〉で()れたりなんかしねーし。  死んでも守るなんざ思ってもねーからな!!  第一、それじゃ命がけでテメーの下僕(しもべ)やってる意味が無くなっちまう !  俺は ... お前と生き残って、俺の大事なものを守るって決めてんだ!!  変わり者ぶって屁理屈(へりくつ)ごねんじゃねーぞ!!  元々俺は、お前に付き(したが)うだけの男じゃねー!  勘違いしやがったアイツにも、思い知らせてやる ... !!」 フェレンスは笑みを浮かべながら鏡を振り向いた。 そして髪から(したた)(しずく)(ぬぐ)いつつ返す。 「お前の言う〈普通〉とは随分(ずいぶん)と都合の良い言葉なんだな。  ()りて言えば普通 ... そのような変わり者には関わらないようにするものだと思うが」 「この()(およ)んでまだ言うか? 理不尽上等(りふじんじょうとう)なんだよ。  つか、そうでもなきゃテメーの友達(ダチ)なんざやってらんねーだろうが ... ん ?」 身体を拭き(すず)色のローライズ・スラックスをはき終えた頃。 カーツェルもまた、タイを(えり)に戻し()えのシャツを取る。 「もう少し、話し合う必要がありそうだな」 「旦那様の良きに計らいましょうとも ... 今はまだ、下僕(しもべ)として ... 」 実のところ、自覚した頃から気持ちの整理を初め。 ある程度の予測も済ませてはいたのだ。 先程はつい取り乱したが ... ある意味、予定通り。 要は、フェレンスの口()きを警戒した訳で。 動揺が隠しきれていない。自分でも分かる。 それでも落ち着き払った素振りを続けねばならなかった。 鏡()しに見合えば、(うたが)わしげな表情を見せるフェレンス。 カーツェルは苦し(まぎ)れに片方の目尻を(すぼ)めた。 双方にとっての不都合は解消せねばならぬ。 しかし、意識の完全復元など、出来るわけがない。 そんな気がして。 なるべくは、黙らせておきたかったのだ。 本当は、フェレンスの帰宅までに巡った屋敷内のいたる所で、 自分と某騎士霊 ... それぞれの想い出が交錯(こうさく)し、幻覚を見ることさえあった。 だが知られる訳にはいかない。 気付かないでくれ ... ... カーツェルは願った。 屋敷に戻り()もなくして、ロージーに聞かされた話を思い出しながら。 『そう言えば、一つ教えておいてあげるわ。カーツェル様 ...  旦那様が (だ~~~い)好きな ア・ナ・タ に、特別ね ?  と言うのも不具合のコトなんだけど。 ... 本当は、それね。  魔導装置(マギカリウム)でも、そう簡単に流せるものじゃないと思うのよ。  クリーニングでシミ抜きしたって、何かしら痕跡(こんせき)は残るのと一緒。つまりね?  意識に()き付いた瑕疵(かし)を取り除くには、本来  それと関係深い記憶ごと抹消(まっしょう)する必要があるワケ ... ...  分かってもらえるかしら?』 下手(へた)をすれば、フェレンスに(から)む記憶の一切を ... 消される可能性だってある。 聞いた瞬間、背筋が凍る思いがした。 融合(ゆうごう)による意識の侵蝕(しんしょく)なら、まだ(あらが)いようがある。 むしろ一方的な判断で、知らず 々 のうちに手を打たれては困るのだ。 例え、シャツを着込むフェレンスの肩口に寄り添い、抱きし(しだ)く ... 男の(まぼろし)を見ても。 奥歯を噛み()め、無かった事にすればいい。 騎士霊の未練か、自身の()めたる願望か。 いや、まさか、それは無い。 考え始めると先のように混乱するだけ。 ただ今は、(さと)られることのないよう振る舞うのみ。 症状が進行していった場合、どうなるか。 先々を案ずるよりも、()すべきを成さねば。 そのためには、まず、あの少年を ... ... 鏡を向くフェレンスの前に出て、(えり)飾りを掛けてやりつつ、カーツェルは思う。 ()わる瞳は、幻を ジッ ... と見たままだった。          鈍色の空の(もと)。戦火に焼かれた(のち)、樹海に沈んだ廃墟(はいきょ)に立つ。 (ゆる)やかに吹く風には灰が()じっていた。 幅広い黒のストールを風に広げ、(あるじ)の頭上から、口元、肩、背中へ掛けると。 端々(はしばし)の切り込みに沿()う刺繍と玉飾が気流に乗って(つばさ)(えが)く。 ローブの内側へ手を入れた彼ノ魔導師は、()に差した杖を取って(まわ)し、潮流(ちょうりゅう)を裂いた。 昇華(しょうか)を果たした杖の指す先に(あらわ)るは、(いん)から()る魔法陣。 成長する(しも)のように(ひろ)がり結晶化していくその中心へと()け出していく執事は、 追って姿を見せた英霊と意識を重ね、やがて、高く、高く飛ぶ。 (かせ)を通じ、円陣の一部となった(すえ)雪白(せっぱく)ノ魔人へと(へん)じ。 冥府ノ()(まと)って。 風を起こす巨大な魔物(キメラ)に立ち向かうのだ。 岩肌からボロボロと落ちる石塊(せっかい)(くぐ)り、 湾曲刀(サーベル)と化した両腕で交互に斬り込み、(いさ)んで。 進撃の最中(さなか)率先(そっせん)しているのは常に ... あの竜騎士だった。 いつもそう。 こちらの意識がはっきりすれば、見ていた夢も消える。 それが、ここ最近では事情が変わってしまったとあって。 息苦しい。 『ここを回せば、後ろの肩が開くのですね ? それから、(ひじ)のここを引いて、  (わき)のこれを返して、胸当てを前に出して ... わっ 、これでようやく(どう)(はず)せるわけですか』 『そう。ああ、自分で外します。重いですから。少し下がって』 『あ、すみません』 『いえ、そこに居て下さい。もう満足でしょう ? あとは(かぶと)の、ここを ... 』 『待って下さい。お願いです。最期(さいご)まで ... 』 『 ... ... どうぞ 』 『ここ、ですね ? ... ん。 回らない。 ... 押す ... 違う。上げる?』 『 ... ... 逆です』 『下げる! そうか ... あれ、でも、開かない。それから、これを ... どうすれば』 竜騎士の装備は特殊(とくしゅ)何故(なにゆえ)こうも複雑な(つく)りをしているのか。 ()ねてからの疑問に応える騎士は、(つか)えたる主君(しゅくん)の様子に クスクス と笑い声を()らした。 『笑わないで下さいと、何度、言えば ... 』 『申し訳ありませんが。無理です』 『もう ... 』 耳の後ろ付近の仕掛けを、いつまでも カチャカチャ と(いじ)る音に急かされる思い。 『手伝いましょうか ? 』 『結構です』 『どうか、是非(ぜひ)とも』 『却下(きゃっか)します』 『では、早く ... ... 』 『待って ... ... 』 いくら言っても聞き届けてもらえないので。 体勢を変え、まだ幼い身体(からだ)側面(そくめん)を指先で()で下ろした。 『待って。そこは、(くすぐ)ったい』 『早く ... ... 』 『それに、こちらを向かれると手元が ... 見えない』 『早く ... ... 』 恐らくは二倍近くもある騎士の身体(からだ)に押しやられる。 と、両の仕掛けが折り返されスルッと奥に入り込み、()装飾(そうしょく)が手前に浮いたので。 思わず強まる口調。 『分かった! これを引いて、次は上げる!』 (かざ)りを指に掛けた時点で、兜の裏側が開き、騎士の髪が フワリ ... 緑の息吹(いぶき)(ふく)んで舞った。 『よし、これで! ... わっ、ああ ...!』 逆光を()びる身体(からだ)が、スルリ ... 兜を持ち上げた(うで)を取って横たわる。 まったく、何をしているのか。 『ようやく ... 貴方(あなた)の顔を見られる ... と、思ったのに』 彼は、(こし)()いて肩口に顔を入れる騎士に(あき)れていた。 手にした兜を横に投げ出すと、仕方なく黙り込む。 低い(しげ)みから()木漏(こもれ)れ日を共に受け、そよ風に揺れる葉の音を聞いていた。 だが、やはり気になるので。 チラリ ... 若干、首を(かし)げ、騎士の髪色から確認してみる。 黒髪 ... ... すると、肩口で(ささや)く騎士の声。 『何故(なぜ)、こうも複雑な仕組みである必要があるのか ... 気になりますか?』 『ええ。けど今は、貴方(あなた)の素顔の方が ... ... 』 騎士は(ほが)らかに笑う。 そして、腕を立て顔を上げた。 影になって、よく見えないが。 首筋には、全身を巡る印列の一部。 『竜騎士と主君を結ぶ刻印が人目に触れぬよう。  死してなお、(あば)かれること無きよう。  本来であれば、この仕組みを他人に明かすことは禁忌(きんき)とされています。  (ただ)し、血の繋がった両親や兄弟、  永久(とわ)に愛すると心に誓った人であれば例外。  この(よろい)が、我々(われわれ)(ひつぎ)となるわけですから ... ... 』 永久(とわ)に ... ... ? 疑問に思っていたところ、騎士は身体(からだ)を返し草の上を転がった。 大きな手に(こし)(つか)まれていたので、次に日を背負ったのは彼の方。 騎士の、短く切り(ととの)えられた黒髪。(ひねく)れた毛先が風に揺れている。 『お(した)いしています。心から ... フェレンス様 ... 』 徐々(じょじょ)身体(からだ)を起こす騎士の胸に手を当て距離を保とうとするが、力負けした。 『グウィン ... ... ?』 幼さの残るフェレンスの、腰から背中へ。(すべ)るように回り込む手。 (ほほ)に触れてから耳元を向いて、()むように吸い付く(くちびる)。 ハァ ... ... ハァ ... ... ハァ ... ... 息苦しさを覚え、カーツェルは身悶(みもだ)えた。 騎士の視点で、フェレンスの肌を間近に見ながら。 (ころも)の上から背筋を()う騎士の指先が、真っ直ぐに降りていく。 柔らかい布の感触、しなやかな身体(からだ)の曲線に馴染(なじ)んでいく手のひら。 (みずか)らの手で直接、触れているかのように感じるのである。 流石(さすが)に、これ以上は無い。 振り払うようにしてその場から逃れたまでは良い。 あらため後ろを向いたカーツェルは、(ころも)(すそ)をたくし上げる騎士の手が ... フェレンスの(あし)()で持ち上げるのを見て声を上げた。 「 う ... !!」 やめろ !! やめろ ! やめろ !! 叫びたいのに、息だけ(あら)らぐ。 蹴散(けち)らしてやりたいのに、身体(からだ)が言うことを聞かないのだ。 フェレンスがそこを退()けばいい。 どうして()すがままなんだ。 もう、これ以上は見たくない。 やめろ ... ... やめてくれ ... ... 強すぎる騎士の想いがカーツェルの胸を()がした。      

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