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第五章◆石ノ杜~Ⅳ
鳥の囀 り、羽音を耳にし。
枝葉の合間から見上げた空は、赤味を増し始めている。
フェレンスが言う水源付近で摘んだ果実を数種、蔦 に括 り、肩に担いでの帰り道。
今一度、陽の向きを確認したカーツェルは、軽やかに岩棚を降りていった。
一帯は、ほぼ岩相 らしく。
よく見て歩けば危険な物を踏みつけたりせずに済むので、行き来も容易。
ならば、ここを発つ前にも幾 らかは袋に詰めていける。
袂 へ降り立つカーツェルの気分は上々。
差し当たりとは言え、すんなりと食糧問題が解決し安堵 した。
けれども ... 洞 の手前で二の足を踏んでみたり。
壁際から ヒョイ と顔を出して覗いてみると。
立て置いた緑染 めのトランクケースに腰を掛ける後ろ姿。
雪崩を起こした荷の上には、提燈 の灯火 。
傍 で小機材を組む背に向かい、カーツェルは小声で尋 ねた。
「 イ キ テ ル ? 」
先にも聴いた憶えがあるなと。
振り向く真顔が、ちょっと怖い。
「お陰様で ... 」
目が合うなり鼻先まで壁に隠れて シュン とするカーツェルに対し、フェレンスは言った。
「だが二、三、聞きたいので。ここへ来て座りなさい」
「はーい ... 」
そう来ると思った。
傍 に寄る彼は、採ってきた果実を置いて胡座 し頬杖。
理不尽に叱られる事はないと分かっているので、出方を見る。
表情には昔からの《やんちゃ》が滲 み出ていた。
この期 に及んで、随分 と楽しそう。
「よく、あの状態を維持しながら詰め込めたものだな?」
「はは。俺もそう思う。でもアレな、ちょっとコツがあんだよ」
フェレンスは一旦、言葉を飲んだ。
まずは話を聴き、想像してみようかと。
執事の様相で指輪の鍵印 を翳 す彼は、
空間の扉が開くなり、サッ と荷を押し付けて力任せに肩で押し込む。
「それが辛くなってきた頃には、ロージーにも手伝ってもらったけどな」
解説を耳にしたところ。
《 ドッセ -------- イ !!》
呆れ顔で腕組み待機していたムキムキ、
オカマ・メイド頭 の張り手、一発で片付く様子が目に浮かんだ。
もはやコツでも何でもないが ... ...
フェレンスは静々と荷の山に目を向ける。
これまで預けてきた幾 つかの貴重品も、紛れているに違いないのだ。
状態が思いやられるわけで。
遂 には頭上を仰 ぐ。
息を吐きながら肩を落とす姿を見ていたカーツェルは、
また少しだけ シュン として視線を泳がせた。
するとフェレンスは、二つ目として問う。
「こんな扱いをしたら機材がどうなるか、よく考えて答えなさい」
「 ... ... 壊れるかもしれない」
更に三つ目。
「壊れてしまった時に起こり得 る事柄を、よく考えて答えなさい」
「 ... ... 怒られる。使いたい時に困る。持ち主に嫌われる」
まるで子供の躾 だと思った。
肩身が狭くて仕方がない。
耐えかねたカーツェルは、次の質問を遮 る。
「では ... 」
「ゴメン!!」
どんなに忙しかろうと、もうしない。彼は言った。
「壊れてる物がないか、今すぐ確認するし、もしあったら立て替えるから!
この中には、俺のヘソクリもあるし ... ... 」
ところが、更に遮られてしまう。
「それが、この世に二つとして無い物だとしたら?」
身も蓋もない。
話が反 れるけれども。
そんなモノ、俺に預ける ... !?
正直、そう思った。
だとしたら悪いのは、こちら側ばかりではないはずだと。
申し開きが頭を過 る。
けれども、それだけ信頼していたという事であれば、返す言葉が見つからないのだ。
過信したなどと聞かされたところで、お互い険悪にしかならない。
カーツェルは押し黙ってしまった。
片付けを怠 ったばかりに、こんな気持ちになるとは。
自業自得ながら情けなし。
さて、どうしよう。
考えていると、フェレンスの唇が思いがけない言葉を紡 いだ。
「例えば、お前の存在であるとか ... 」
一瞬、首を傾げたが。先の続きと分かって ハッ とする。
「最 も ... お前であれば、掠 り傷で済むかもしれない。
だが、これから先は幼い子を連れての旅になるのだから。
改 め、気配りを忘れぬよう努 めて欲しいと思う」
黙って聴くカーツェルは、フェレンスの身体を隈無 く観察し。
目に付いた打ち身を暫 し見つめて、俯 いた。
「お前は不当に仕事の手を抜くような男ではない。私も、よく知っている。
なので、これは飽 くまでも私からの願いだ。... 重ねて言う。
改 め、気配りを忘れぬよう努 めて欲しい。頼めるか?」
主人としての申し付けではない。
時と場合により、深妙な理解を示す。
フェレンスの言葉が身に沁みた。
同時に何を思ったか。
カーツェルは一度、立ち上がり。次にはチェシャの横で腰を下ろす。
気持ちを落ち着かせてから、彼は答えた。
「うん。分かった」
その背を見やり微笑むフェレンスは再び、機材の組み込み作業に取り掛かる。
幼子 の寝顔は、スヤスヤ と物柔 らか。
カーツェルは、その後 ... 暫 くチェシャの傍 を離れなかった。
《 カチャカチャ ... キュッ ... キュキュ ... コト ... 》
指先ほどの六角締結部品 を取っては、
筐体 に収められた仕切りを固定していく。
極、小さな物音。
星明りに照らされた木々を揺らし岩棚の袂 へと吹き込む風が、
艷 やかな銀髪を撫でると、前留めのはずされたシャツの襟元が フワリ フワリ ... 呼吸した。
フェレンスが用いる機材は、どれも膝上 で組み上げ可能だが。
複数を並列させるとなれば、それなりに場所を取る。
遠征に応じる錬金術師を始め、魔導師の扱うそれらは、
目的により端末や機器の組み換えが行われるためだ。
例えば食器棚や本棚、等。
それぞれを中身ごと持ち歩くには大きすぎるし、人手を要するので。
組み立て式の棚一つと必要な物を、その都度、取り揃えたほうが早い。
一部はチェシャと出会って間もなく、血の判定に用いられた機材も含まれていた。
ところで ... ...
いつもなら、組み上げる様子を飽きもせず眺めて待つカーツェルだが。
この時ばかりは背を向けたまま、じっとしている。
チェシャの寝顔を見つめながら何を思うか。
恐らくは、帝都の惨状。
故郷に残した知人、友人の安否であろう。
チラリ ... ...
彼の背を見るフェレンスは、あえて視線を戻した。
何事にも対価を要すると思い知れば、誰もが一度は苦悩する。
カーツェルもまた、例外ではないのだ。
思っていたよりも、ずっと重く伸し掛かる。
罪の意識。
尊 の側の勢力、つまりは、信教徒の過激派と
単独にて駆け引きするつもりでいたフェレンスを、引き留 めるため。
とは言え、自身の命ばかりか多くの人命を巻き込んだのだ。
地獄へ落ちようとも。
フェレンスの傍に居て彼に付き従ってさえいれば、運命を切り開いていける。
彼の成すべき事が果たされたなら、最悪の事態をも回避できる。
そう信じて。
しかしながら、それらは飽 く迄 も身勝手。
--- 異端ノ魔導師が成すべきを成す対価として負ってきた命の重圧を、
人々は《罪悪》と呼ぶ。
それを、よく平然として受け入れられるものだと思うのだ。
度量、器 が違うと言ってしまえば、それまでだが。
「なぁ、フェレンス」
カーツェルは思い切って尋 ねた。
「どうして ... 怒んねーの?」
つい先頃にしてみてもそうだが。
この度した事に一切、触れようとしないフェレンスの思うところが気になった。
けれども逆に尋ね返される。
「不思議か?」
「うん ... 」
作業を続けるフェレンスは折りを見て立ち上がり、続けた。
「ともすれば。私の使命や、それに伴 う罪を分かち合う立場となった事など、
自覚したうえ自身の身勝手に触れようとしない私に対し、疑問を抱いたと推測するが」
「うん ... 正 にそれなんだけどさ」
「勘違いしてもらっては困る」
「え?」
思いも寄らない言葉を耳にし、振り向くと。
荷の山から金箱 を取り、手のひらに乗せて立ち返る雄姿。
風格を湛 える碧 ノ瞳に見つめられ、ドキリ ... とした。
装置の傍で携 えた箱の蓋を開き、
取り出されたのは魔青鋼小片 の埋め込まれた英石柱 。
手早く選び抜かれた複数を、端末の横から装填 していくと、
各機器付属の半球晶 が小規模な法儀球 を立体投影し、中心の立ち姿を囲む。
彼は答えた。
「お前は、改 め私の下僕 として生きる道を選んだ。
よって、お前のした事に罪が生じた場合、その一切は主人である私が負うべき」
力強く、はきとした言調。
機関に極光 を送る光源の下 、向き直る視線。
「お前が自身を信じ、私を信じ、成した事であるならば当然 ... 」
その上、更に言い切るのだ。
「お前に責任は無い」
「 ... ... 」
対し、目を見開いて驚く。
なに言ってんの、こいつ ... ...
つい、呆気 にとられてしまった。
けれども、次第に込み上げる切情。
可笑 しいやら、遣 る瀬無 いやら。
兎 にも角 にも困り果てる。
カーツェルは眉間 に皺 を作りながら、口元に笑みを浮かべた。
そんなワケねーだろうが ... ...
どんな自分ルールだよ。
本当 、こんな時だけ《下僕》扱いしやがって。
偉そうに ... ...
そう思うと、複雑な気分。
過保護にし、権力者と錯覚させ従属を強いる。
貴族等 を間近に見てきたカーツェルにとって、
似 て非 なる彼の言動は患 いの因 であった。
「つーか ... 」
一体、何人分の罪を負うつもり?
それら全てを放免にしても、彼を引き込みたい輩 が存在するという事。
どうして、そんなに優しいの?
大切に思う人の苦痛に歪む顔を見るよりも、
自らの身を裂いた方が忍 に容易 いという認識か。
言いたい事は山程あるが。
一先 ずは口を閉じて立ち上がり、彼の前へと歩いて行く。
これだけは、面と向かって言いたかったのだ。
「いくら言われたって、お前一人に負わせる気なんざ更々 ねーよ」
「だろうな ... 」
そうして差し出される箱。
機器の組織構成を補 う英石柱 が収められた中には、
一組の指輪が差し込まれていた。
何 れもフェレンスの血から精製された魔石があしらわれている。
一つを取り、跪 くカーツェルは、フェレンスの対 の手を引き寄せて思った。
左手か ... ...
あえて選ばれたのは薬指。
愛情、絆を深めるとの言い伝えに習 い。
願いを込めて輪を通すと、魔石から、彼の手首から漂う魔ノ香 。
頬 を寄せ、暫 し酔いしれる。
カーツェルの唇が手の甲に触れると、フェレンスの目元が僅 かに強張 った。
顔を上げて悪戯 に微笑んで見せる彼は、一言、こう添える。
「麗 しの旦那様。ご気分は如何 でしょうか?」
気分が吹っ切れて、余裕が出てきたよう。
まったく ... ...
真面目な話をしていたのに。
はぐらかすのが上手い男だ。
フェレンスは彼の手を解 き、軽く耳を摘 む。
「巫山戯 ていないで、立ちなさい」
自らも指輪を取り箱を置いて、さっさと填 めてやろうかと。
けれども、何だか気になる視線。
見ると案の定、含 み笑いを見せる彼。
小首を傾 げて煽 る仕草に、思わず溜息が出た。
手にしたそれは、どの指にも自然と合う仕組みになっているが。
フェレンスは思う。
ここは一つ、期待に応 えてやらねば ... な!
《 グイッ !! 》
すると、流石 の彼も吹き出した。
「 ぐあ! ちょ ... 待った! 痛てててて!!」
ゆっくり入れていけばいいものを、一気に差し込むものだから。
薬指の節 に引っ掛かり ギチギチ と肉を咬 む。
程なくして 輪郭 が補正され スッ ... と収 まるも、
節に息を吹きかけずにはいられない。
してやったり。
フェレンスは真顔で振り向き、再びトランクケースの上に腰を下ろした。
主人に対し敬意を表するくらい、然 して大げさとは思わなかったが。
その後の手際を眺めながら察すれば、可愛らしさを垣間 見たと実感する。
「まーた。照れちゃって」
小声で言うカーツェルだったが、フェレンスは聞かぬふりをした。
作業は速 やか。
各義球 を総括 し、手元に配置。拡大。
制御盤の印を弾き、交信を確認後、構成処理目にあたる法陣を展開すると。
天球に散らばる星 が座標系を打ち下ろし。指示が下される。
「手を額に当て、想像 しなさい。指輪が読み取りを行う」
凜 として澄 んだフェレンスの声が反響し、降ってくるようだった。
「 ... てコトは、左手で良いんだな?」
手の甲を見て指輪の状態を伺 うと、フェレンスの操作により天球が縮小。
腕を伸ばせば、星 に手が届きそうな距離である。
指輪と相手。交互に眺め回答を待つに対し、
視線だけよこして コクリ と一つ頷 く彼。
カーツェルは目元を覆 うようにし、五指 を付いた。
続いて瞼 を閉ざす。
機器の動作音が手際の良さを反映しているよう。
聞いていると、立ち所に絞 られた座標が輪郭を捉 え、転化。
表皮を準 える光芒 が幾多の基点を結び。
読み取られた装 いを外沿いに描写していった。
仕上げはフェレンスにお任せ。
再び立ち。歩み寄る彼は、そっと触れる。
各部 から引き出された組成 情報は、法陣を描き現 れた。
印文 の一部を指先で突いては、手早く記 し変え。
厚手のベストには黒地を選択。
縁取りの間近には、銀糸の刺繍を施 し。
左肩、胸、腰、一揃いの当て具には硬化処理された厚手の皮を。
柄には加締 を打ち込み、防御性を補う。
「二刀を扱うお前の俊敏な立ち回りを害さぬよう。
脛当て や籠手 の素材も揃えた」
「そりゃ、ありがたいね」
片瞼 を開き、額に当てた指の合間に見れば。
蒼き光の鏡に映し出される我が身。
次いで、自らの装衣を整え始めたフェレンスを待っていたのだが。
動かないほうが良いよな?
そんな気がして大人しくしていると ... 差し伸べられる掌 。
「手を貸しなさい」
カーツェルは求められるまま、彼に対 の手を預けた。
しかし、何故 か。クルリ ... 向きを返され、身体の横へ腕を伸ばす姿勢に。
フェレンスは更に回り込んで、同じように右腕を広げる。
そして、親指と中指の先を合わせ弾 き鳴らした時だった。
《 パチン !! 》
管状装置の中に浮く魔石が七色に輝く極光 を受け、消化されていくのだ。
「あれも、お前の血 ... ?」
「ああ、作り置いていたものだが」
二人分の衣服や防具を揃えるのに、二寸のうち半分が失われる。
あれだけの魔石を精錬 するのに、どれだけの血が必要なのだろう。
軽く見積もっても五立 ?
「結構、抜いたな」
「定期的に、幾 らかずつな」
「なるほどね ... 」
こつこつ、地道に抽出した魔力を結晶に収めていった訳か。
会話中に開始した装衣の形成を見守るフェレンスは、基質の変性を指先で導く。
カーツェルの背後にて。
身体の曲線に沿 い、サッ ... と腕を振り払う毎に弾ける光織 。
シャツ、ベスト、ジャケット、ボトムス、防具、結留 め。
次々と錬成させていくそれらの表には光の波が立ち、端から端へ。
各部、各色。染め上げられていく様子を目で追うカーツェルは、
着込みが済み次第、防具の締めを微調整し始めた。
そして一言。
「変身、完了!」
なんてね。
振り向けば、引き続き自身の装衣を整えるフェレンス。
足首に届く丈のロングジャケットは、紫染めの油浸皮 。
肩口、前留め、腰のベルトを順に絞 っていく彼は、最後に同素の手袋を履き締めた。
フェレンスにしては珍しく、庶民的な装 い。
と思いきや。
背や胸元など、厚口箇所には打ち装飾 が施されており、艶 やか。
美しい模様が画 かれた浮き織りのアスコットタイといい、
控えめとは言え、何とも贅沢な仕様だ。
よく 々 見れば、自分もそう。
イメージしていたものとは、ちょっと違う。
上着の襟元を捲り、内張りを覗き見ながらカーツェルは言った。
「にしてもさ、少し派手なんじゃね?」
これはもう明らかに、一般の旅人とは別格の風貌 だ。
彼の意図を察すれば、両の腰に手を突いて肩を落とさずにはいられない。
「まったく。逃げ隠れする気《0 》かよ」
呆れ顔のカーツェルを見て、フェレンスは笑う。
「信教徒の過激派と通じる尊 の策から逃れる事は不可能。
足掻くほど遠回りを強いられるのは目に見えている」
「けど、フォルカーツェの野郎が属する結社や
帝国の傘下 に入る気も無ぇーんだろ?」
「うむ ... 」
「アイゼリアに取り入る気 ... ?」
名のある魔導師を従 えるは帝国の他、先進国の内、数カ国のみ。
「アイゼリア王国は石ノ杜 に守られた鉱物資源国。
軍事大国を銘打つ帝国ですら、アイゼリアを敵にするわけにはいかない。
しかし、この国の立場は常に危うい。何故 か分かるか?」
「噂に聞いたことはある。確か ...
大昔は大陸のもっと南にあった小国だったとか。
他、幾つかの国を喰って領土を拡大してきたとか何とか ... 」
「そう」
この国に面する国々にとっては災害的、潜在敵国。
石ノ杜 の向かう先には戦が生じる定め。
「帝国政府が懸念を公 にすることは無いが。
杜 の北上を観測し、近頃は特に警戒している」
「 ... てコトは、軍事大国を目の前にするアイゼリアも気が気じゃねーよな」
「恐らくは」
会話は続いた。
物理的に臨戦するのであれば、杜 を盾にすることも可能。
毒を有する杜 そのものが、兵器も同然なのだから。
フェレンスは、そう説 いて機器の停止に取り掛かる。
しかし、何やら思わしげな雰囲気。
一方、腕組みして聴くカーツェルの表情は暗い。
「でも、アレだろ? 杜 を退 ける、
それどころか焼き払うほどの軍事火力。
例えば、帝国魔導師の存在であるとか。
お前のいた高等錬金術師団の連中なんか特にさ。
この国、最大の驚異だもんな ... 」
そこへ亡国ノ末裔が飛び入るともなれば。
そりゃあ、アイゼリア国王様も万々歳だろうさ。
彼は思った。どこまで行っても泥沼なんだなと。
けれども、こいつ。フェレンスと来たら。
策謀 に振り回されるどころか、足掛かりにしてしまおうと言うのだ。
実際には言ってないけど。
いわずもがな。分かる。
カーツェルは深々と俯き、とうとう黙り込んでしまった。
その発想、マジでヤベーよ ... ...
思っても言葉にならない。
なのにどうしてか、笑いが込み上げてくるのだ。
《 ... ... フフ ... クスクス ... ... 》
薄気味悪く漏れる息。
思わず手を止めるフェレンスだったが、相手にするまいと思った。
見もせず装置を片付けていると、観念した様子で顔を上げるカーツェル。
何の反動だろうか。今度は盛大に笑い始めたので。
つい、ぎこちなく振り向き見てしまう。
「 フフ ... ハハハハ!!」
只々 眺めていると、息を整えながら彼は言った。
「 フフフ、ハハハ ... ああ ... なんつーか、
お前らしすぎて反対する気になんねーんだよな。
まったく、困ったもんだぜ ... どこかの英雄が反逆するワケだ。
国とつるんで幽閉するくらいしなきゃ止められねーもんな。お前はさ ... 」
すると息詰まる。
黙り込んでいる間に彼が見たのは、かつての《記憶》。
ここまで日常的に触れているとは ... ...
複雑な思いがした。
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